遺言書(自筆証書遺言)の正しい書き方とは?注意点も分かりやすく解説!

相続は、遺産の分割や財産の移譲に関わる重要な法的手続きです。しかし、時には家族間でのトラブルや法的な混乱が起きることもあります。そうした問題を回避し、遺志を明確にするために、「遺言書」が有効な手段として注目されています。

遺言書には複数の形式がありますが、もっとも手軽に作成できるのが「自筆証書遺言」です。しかし、自筆証書遺言は一定の要件があり、満たしていないものは無効になってしまう可能性があります。

本記事では、「自筆証書遺言とは何か?」や、正しい書き方、作成の際に注意すべきポイントなどを分かりやすく解説します。

自筆証書遺言とは

「自筆証書遺言」は、本人が手書きで作成した遺言書のことです。

「公正証書遺言」が2人以上の証人が必要なのに対し、遺言を残す人(遺言者)だけで作成できます。そのため作成費用なども掛からず、場所を選ばず手軽に作れるのがメリットです。

しかし、自筆証書遺言はただ手書きで作成すれば良いわけではなく、以下の5つの要件を満たすことで法的に有効となります。

① 遺言者本人が自筆で全文を書く(財産目録は除く)

自筆証書遺言は、必ず遺言者本人が自筆(手書き)で全文を書く必要があります。

家族が代筆したり、パソコンで作成したりしたものなどは無効になるため、注意しましょう。

ただし、財産目録についてはパソコンなどで作成したものや、通帳をコピーしたものを添付しても問題ありません。添付する財産目録にも、遺言者の署名・捺印を忘れないようにしましょう。

②作成日も自筆で書く

遺言書の作成日を正確に書いていないと、自筆証書遺言は効力を失ってしまいます。

「2024年4月1日」や「令和6年4月1日」など、年月日を明記しましょう。「2024年4月吉日」のように、日付があやふやなものは無効となりますので、注意が必要です。

作成日は、複数の遺言書があった場合に「どの遺言書が最新のものか」を知るのに重要な判断材料となりますので、忘れないようにしましょう。

③自筆で署名する

遺言書には、遺言者の署名が必要です。

戸籍上の名前を正確に、フルネームで記載しましょう。

署名の前に現住所を記載すると、より分かりやすいでしょう。

④捺印する

フルネームで署名したら、名前の後ろに印鑑を押しましょう。

印鑑の種類は認印でも問題ありませんが、インクの劣化などで捺印が見えなくなると遺言書としての効力がなくなるため、朱肉+実印で押すことをおすすめします。

⑤訂正する場合は捺印するなどのルールを守る

書き損じた場合や内容を削除したい場合などは、該当箇所を二重線で消し、捺印します。修正テープで消す、塗りつぶしで消すなどは修正ルールに反しますのでNGです。

さらに、修正後の文言を吹き出しで追記し、遺言書の余白部分に「どの部分を何字削除し、何字追記したか」などの情報も記載する必要があります。

修正箇所が多い場合は、修正ミスを起こす可能性があるため、新たに作成しなおすのもおすすめです。

自筆証書遺言の作成方法

自筆証書遺言は遺言者一人で作成できる一方で、「何から手を付けていいか分からない」という声も多いようです。

そこで以下では、自筆証書遺言の作成方法や、作成に当たっての注意点をご紹介します。

①財産に関する書類を確認し、集める

自筆証書遺言を作成前に、まず自分がどのような資産をどれくらい所持しているかを確認しましょう。

不動産であれば「登記簿標本」や「不動産全部事項証明書」、預貯金であれば通帳や残高証明書、株であれば証券会社の残高証明書など、財産目録を作るために必要な情報や書類を集めます。

さらに、価値の高い絵画や宝飾品、骨董品があればその明細も用意しましょう。

また、借金がある場合はその情報も記載する必要があります。

②財産目録はパソコンで作成可能

財産目録はパソコンで作成も可能なため、上記手順で集めたものを一覧として記録しましょう。

不動産の場合は住所や面積、評価額などを記載します。

預貯金の場合は金融機関名、支店名、口座種別、口座番号などの情報を記載し、誤りのないように確認しましょう。

また、パソコンで作成した財産目録は、全てのページに署名・捺印するのを忘れないようにしましょう。

③紙やペン、実印を用意する

書くことが決まったら、自筆証書遺言を書く紙やペン、実印を用意しましょう。

遺言書は特に紙の指定はありません。一般的なコピー用紙や便箋などでもOKです。

ただし、2020年からスタートした「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合は、下記の様式を守る必要があります。

  • サイズ:A4サイズ
  • 模様等:記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの。一般的な罫線は問題ありません。
  • 余白:必ず,最低限,上部5ミリメートル,下部10ミリメートル,左20ミリメートル,右5ミリメートルの余白をそれぞれ確保してください。
  • 片面のみに記載
  • 各ページにページ番号を記載してください。ページ番号も必ず余白内に書いてください。
  • 複数ページある場合でも,ホチキス等で綴じないでください。

    (参照:法務省「自筆証書遺言書保管制度について」

また、筆記具についても特に指定はありませんが、消えにくいボールペン、万年筆、筆ペンなどを使用するのがおすすめです。

④遺言書に「誰に何をどれだけ」相続させるか明記する

上記手順で相続する資産が確認出来たら、誰に相続させるのかを遺言書に記載します。

ここで注意が必要なのは、「誰に、どの資産を、どのくらい」相続させるかを明確にすることです。

例えば「長男Aに土地を相続させる」とだけ記載すると、複数の不動産を所持している場合は、どの土地を相続させるかでトラブルになってしまいます。

例えば「長男Aに○○銀行 普通口座 ○○○○(口座番号)の預貯金を相続する」、「次男Bには○○○会社の株式 数量○○株」などというように、誰が見ても分かりやすいように記載しましょう。

また、相続する人のことは「息子に」「妻に」といった表記ではなく、フルネームと関係性、生年月日なども併せて記載しましょう。

⑤日付を記載し、署名捺印をする

一通りの記載が終わったら、最後に遺言者の署名をし、捺印を押しましょう。

ただし、遺言書は複数名の連名では作成できないため、必ず記名は一人分に留めましょう。

自筆証書遺言の登録と保管

自筆証書遺言書を有効にするには、適切な手続きを踏む必要があります。その一つが、法務局への登録です。

法務局へ登録することで、遺言書の存在と内容が公的に確認されるため、トラブルを未然に防ぐことができます。

自宅などに遺言書を保管する場合は、セキュリティが万全な場所を選びましょう。また、遺言執行者や相続対象(家族)に、遺言書の存在を知らせることも大切です。

遺言の変更や取り消し

自筆証書遺言は、必要に応じて何度でも変更・取り消しができます。しかし、その際には特定の手続きが必要です。

法務局へ保管を依頼している場合は、保管を撤回し、遺言書の原本を取り寄せるところからスタートします。

また、変更手続きは前述した通り、二重線や捺印、吹き出しなどを使って訂正を行います。

もし修正箇所や取り消しの項目が多い場合は、また新たに1から作成しなおす方がスムーズかもしれません。遺言書は最新の日付のものが優先されるため、新たに作り直す場合は日付の記載を忘れないようにしましょう。

遺言執行者の役割と選定方法

必須ではありませんが、自筆証書遺言には遺言執行者を指定することができます。

遺言執行者とは、遺言の内容を実行し、遺産の分割や財産の移譲を行う責任を担う人のことです。

遺言執行者を選ぶポイントは、遺言書の内容を遵守する、信頼できる人物を選ぶことです。

遺言執行者は相続の対象となる人だけでなく、弁護士や司法書士、税理士などの専門家を指定することもできます。家族や相続人に負担を掛けたくない場合など、予算と相談しながら専門家に頼むのもおすすめです。

まとめ

相続の際のトラブルを避けるには、明確かつ有効な自筆証書遺言を残しておくことが大切です。遺言書の作成時には、法的な要件や手続きを守り、適切に管理できるようにしましょう。

また、作成に際しては専門家のアドバイスを受けるのもおすすめです。相続登記などの手続きが多い場合は、登記に強い司法書士の意見を聞くのも良いでしょう。