不動産を分ける2つの方法|代償分割・換価分割のメリット・デメリットと手続きの違い
「相続財産の中に、自宅の不動産しかない。どうやって平等に分ければいいのだろう?」 「不動産を売却せずに、誰か一人が相続する方法はないだろうか?」
相続手続きにおいて、預貯金のように金額を分けて分配できる財産と異なり、不動産や株式といった「分けにくい財産」をどう処理するかは、相続人同士が揉める大きな原因となります。
こうした「分けにくい財産」を公平に分割するための代表的な方法が、「代償分割(だいしょうぶんかつ)」と「換価分割(かんかぶんかつ)」です。
本記事では、この二つの方法について、それぞれの定義やメリット・デメリット、そして特に重要な税金上の注意点を、事例を交えて徹底的に解説します。
あなたのケースに最適な遺産分割方法を見つけるための判断基準としてご活用ください。
代償分割とは?メリット・デメリットと手続き
代償分割は、「家を売らずに、誰か一人が引き継ぎたい」という場合に最適な方法です。
特定の相続人が不動産を単独で取得する代わりに、他の相続人に対して金銭(代償金)を支払います。
例えば、3000万円の不動産を三人の兄弟で相続する際、もともと被相続人と同居していた長男が不動産を相続し、残りの二人に1000万円ずつを支払うというものです。
この時支払うお金を「代償金」と言います。
代償分割の定義と仕組み
代償分割は、不動産や農地など、現物分割が難しいケースで用いられる方法です。
代償分割の基本的なプロセスは、「不動産を単独取得する者」と「代償金を受け取る者」の2つの立場に分かれます。
不動産を単独取得する者
不動産の全部を自身の名義にする代わりに、代償金としてその他の相続人に現金を支払います。
代償金を受け取る者
法定相続分または遺産分割協議で定めた割合に応じて、現金を受け取ります。
代償金の決め方
代償金の金額は、不動産の適正な評価額を基に決定されます。
この評価額をめぐって相続人同士が揉めることが多いため、以下の点に注意が必要です。
評価方法の統一
相続税評価額、固定資産税評価額、時価(不動産鑑定士等による)のうち、どの評価を用いるか全員で合意する必要があります。
実務上は、相続税申告と整合性を取るために“相続税評価額”が基準とされることが多く、相続人間での合意と、税理士など専門家の助言が有効です。
遺産分割協議書への明記
代償分割を行う場合は、誰が誰に、いくら代償金を支払うのかを遺産分割協議書に具体的に明記しなければ、登記や税務上のトラブルの原因となります。
代償分割のメリットとデメリット
代償分割の主なメリットとデメリットは以下の通りです。
| メリット | デメリット |
| ・不動産を売却せずに、思い出や思い入れのある財産を維持できる ・事業用資産や賃貸不動産など、収益を生む財産の所有と管理を一本化できる | ・代償金を支払う相続人が、多額の現金を準備する必要がある ・不動産の評価額をめぐって相続人同士の意見が対立しやすい |
換価分割とは?メリット・デメリットと手続き
換価分割は、不動産や株などの資産を売却して現金化し、その現金を相続分に応じて分配するという最も公平性が高い方法です。
「誰も不動産を欲しがらない」「公平に分けたい」という場合に選ばれます。
換価分割の定義と仕組み
換価分割は、まず不動産や株式等を売却し、得られた売却代金(換価代金)を相続人の間で分け合うシンプルな仕組みです。
この方法は、相続人全員が公平に現金を受け取れる点が最大の特徴であり、不動産や株式を分ける最も円満な手段の一つとされます。
例えば、3000万円の不動産のみが相続財産としてあった場合、3兄弟で分ける場合、不動産を売却して得られたお金から、1000万円ずつ相続します。
不動産の売却方法と注意点
換価分割を行う場合、売却前に誰の名義にしておくかが非常に重要になります。
換価のための所有権移転登記
不動産を売却するためには、まず故人から相続人(通常は全員の共有名義)へ所有権移転登記を行う必要があります。
売却手続きの代表者選定
不動産会社との契約や買主との交渉は、相続人全員の合意を得た代表者を立てて進めることが一般的です。
換価分割のメリットとデメリット
分割の主なメリットとデメリットは以下の通りです。
| メリット | デメリット |
| ・代償金の準備が不要で、誰もが公平に現金を受け取れるため、最も揉めにくい ・不動産の評価額について細かく協議する必要がなく、手続きが比較的シンプル | ・故人や家族が住んでいた大切な不動産を手放すことになる ・売却益が出た場合、譲渡所得税という税金が発生する |
税金・相続税の計算における違い
代償分割と換価分割は、相続税の申告時や、その後の譲渡所得税の計算において、取り扱いが大きく異なります。この税務上の違いを理解しないと、予想外の課税を受けるリスクがあります。
代償分割の税務上の注意点
代償分割において、代償金のやり取りは、基本的には相続財産の分配とみなされます。
贈与税の問題
代償金が著しく法定相続分を超える場合、その超過分については、相続税の対象から除外され“贈与税”が課される可能性があります。
ただし、実務上は相続税の対象として処理されるケースも多く、判断には専門家の助言が必要です。
代償金の出所
代償金の原資が故人の財産ではなく、代償金を支払う相続人の固有財産(貯蓄など)である場合は、税務署もその点を厳しくチェックします。
換価分割の税務上の注意点
換価分割で最も注意すべきは、不動産の売却で利益が出た場合に課せられる譲渡所得税です。
譲渡所得税の発生
売却代金が、取得費(故人が購入した費用)と売却費用を上回った場合、譲渡所得税が発生します。
換価分割によって得た売却代金は、登記上の所有者(共有者)ごとに課税対象となります。
つまり、所有権を一時的に登記した全相続人に、持分に応じた譲渡所得税が発生する場合があります。
特例の活用
居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除など、各種税制上の特例が利用できる場合がありますが、要件を厳密に確認する必要があります。
まとめ:失敗しないための選択基準と専門家への相談
代償分割と換価分割のどちらを選択すべきかは、「相続人の間で不動産をどうしたいか」という感情と目的、そして「代償金を支払う能力があるか」という経済的な側面によって決まります。
代償分割がおすすめのケースとしては
- 相続人の中に、どうしても住み続けたい・事業に使いたい人がいる場合
- 代償金を支払うための十分な現金や貯蓄がある場合
などが挙げられます。
一方、換価分割がおすすめのケースは
- 相続人全員が不動産に対して特別な思い入れがなく、公平性を最優先したい場合
- 相続人の中に、多額の現金を準備できる人がいない場合
が挙げられます。
これらの遺産分割方法は、不動産の適正な評価、代償金の金額決定、そして税務上の複雑な処理が伴います。
特に、遺産分割協議書への記載方法が不適切だと、後々、贈与税の問題が発生したり、登記手続きが滞ったりするリスクがあります。
失敗のない遺産分割を実現するためにも、不動産評価、登記、税務の知識を兼ね備えた司法書士や税理士などの専門家に、早めに相談されることを強くお勧めします。
ゼヒトモ内でのプロフィール: 司法書士法人アレスコ事務所, ゼヒトモの司法書士サービス, 仕事をお願いしたい依頼者と様々な「プロ」をつなぐサービス
