相続で不動産の登記漏れを防ぐ!名寄帳(なよせちょう)を活用した財産調査の完全ガイド

ご家族が亡くなり、相続手続きを進める際、最も注意が必要なのが「相続財産の漏れ」です。

特に不動産は、遠隔地の土地や未登記の建物など、相続人がその存在すら知らないケースが多々あります。

もし、遺産分割後に新たな不動産が発見されると、手続きのやり直しや相続人同士のトラブルに発展しかねません。

本記事では、そのような深刻な「登記漏れ」を確実に防ぐための「名寄帳(なよせちょう)」について、その定義から取得方法、具体的な活用術までを徹底解説します。

登記漏れはなぜ起こる?相続人が知らない不動産の存在

不動産の登記漏れは、相続手続きの遅延や、予期せぬ費用発生の原因となる、最も厄介な問題の一つです。

ここでは、登記漏れについてのリスクや登記漏れが発生する原因について紹介します。

登記漏れ(遺産漏れ)の深刻なリスク

不動産が登記漏れがあると、以下のような深刻なリスクが発生します。

遺産分割協議のやり直し

一度成立した遺産分割協議も、新たな財産の発見により無効となり、全相続人で再度協議を行う必要が生じます。

登記費用や税金の負担増大

後から発見された不動産についても、改めて相続登記や相続税の修正申告が必要となり、追加の費用や罰則(加算税)が発生する可能性があります。

相続手続きの長期化

財産の確定が遅れることで、相続手続き全体が長引き、相続人の大きな負担となります。

なぜ不動産の登記漏れが発生しやすいのか?

預貯金とは異なり、不動産は一元管理されていないため、登記漏れが起こりやすい特性を持っています。

以下では、不動産の登記漏れが発生するさまざまなケースをご紹介します。

故人が生前に所有していた不動産の情報が分散している

不動産は、法務局(登記)と市町村役場(税金)で管理されており、一つの場所で全情報を把握できません。

遠隔地や過去に住んでいた場所の不動産を把握できていない

故人がかつて所有していた実家や、別荘、投資用不動産などが、現在の住居から離れている場合、見落とされがちです。

未登記建物や私道など、見落としやすい財産の存在

建物の中には、建築されてもまだ登記されていないもの(未登記建物)や、公道ではなく故人が所有する私道なども存在し、これらが登記漏れの原因となります。

名寄帳(なよせちょう)とは?

登記漏れを防ぐには、市町村が固定資産税の課税のために作成している「名寄帳」を取得することが大切です。

ここでは、名寄帳について詳しく紹介します。

名寄帳の定義と役割

名寄帳とは、その名称の通り、「所有者名(故人名)」に「全ての固定資産を寄せた(集めた)」一覧表です。

故人が所有するすべての固定資産を一覧できる台帳であり、登記簿謄本のように一つ一つ法務局で調査する手間を省略できます。

また、市町村・区単位で、その自治体内の土地、建物、償却資産などの固定資産情報が網羅されています。

相続手続きにおける「財産調査の総仕上げ」として、抜け漏れがないかを最終確認するために必須の書類とされています。

名寄帳に記載されている情報

名寄帳には、相続人が財産を特定し、登記手続きや相続税申告を進めるために必要な情報が記載されています。

土地・家屋の所在、地番、家屋番号

不動産を特定するための最も重要な情報です。

地目、地積、床面積

土地の用途や面積、建物の規模が確認できます。

故人が所有者であること

故人の名義で所有されていることが明記されています。

固定資産税評価額

相続税申告の際の評価額を算定するための基準情報となります。

名寄帳の取得方法と手続きの流れ

名寄帳を取得することで、故人がどの市町村に、どのような不動産を所有していたのかが判明します。このステップは、登記漏れ防止の核心となります。

名寄帳の取得場所

名寄帳は固定資産税の課税資料であるため、不動産の所在地にある各市町村役場または役所の税務課で取得します。

ただし、名寄帳は不動産が存在する市町村ごとに取得する必要があります。

故人が過去に居住していたり、不動産を所有していた可能性がある全ての市町村役場に申請が必要です。

取得できる人(請求権者)

個人情報保護のため、名寄帳を取得できる人は限定されています。

固定資産税の納税義務者

その土地や不動産を所有している本人は、名寄帳を取得できます。

故人の相続人

土地や不動産の所有者が亡くなっている場合、戸籍謄本などで相続人であることが証明できる人が取得できます。

相続人から正式に委任を受けた専門家

司法書士や弁護士などが、代理人として取得することが可能です。

取得に必要な主な書類

窓口での手続きをスムーズに進めるために、以下の書類が必要となります。

  • 故人の死亡の事実が確認できる戸籍謄本(除籍謄本など)
  • 申立人が相続人であることが確認できる戸籍謄本
  • 申立人の身分証明書(運転免許証やマイナンバーカードなど)
  • 申立人の印鑑
  • (代理人による取得の場合)委任状

名寄帳の活用術:登記漏れを確実に防ぐためのチェックリスト

名寄帳を取得するだけでは、登記漏れは防げません。その情報を正確に活用し、登記簿謄本と照合する作業が不可欠です。

活用ステップ1:全国の不動産を推定する

財産調査の初期段階で、故人の活動範囲を推定することが大切です。

まず、故人の住民票の除票や戸籍の附票を取得し、過去の転居履歴を確認します。

そして故人が居住歴のある、全ての市町村に対して名寄帳の照会を行います。

活用ステップ2:全ての自治体で名寄帳を取得する

照会を行った結果、不動産が存在することが判明した全ての自治体で、名寄帳(または固定資産課税台帳)を全件取得します。

取得した名寄帳に、記載漏れがないか、また故人以外の名義の記載が混ざっていないかを確認します。

活用ステップ3:登記簿謄本との照合作業

名寄帳で把握した情報をもって、最終的に法務局で「登記簿謄本(全部事項証明書)」を取得します。

登記簿謄本と名寄帳を照合し、不動産の所有者が故人であること、担保権(抵当権など)の設定がないか、名義が正確かなどを最終確認します。

名寄帳に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、預貯金の仮払い制度について、よくあるご質問にお答えします。

Q1:名寄帳は全国どこでもまとめて取得できますか?

いいえ、できません。名寄帳は各市町村が管理する固定資産課税台帳の一部であるため、故人が不動産を所有していた各市町村役場ごとに個別に請求する必要があります。

Q2:名寄帳の代わりに固定資産税の納税通知書で代用できますか?

納税通知書には、課税対象となっている主要な不動産は記載されていますが、評価額の低い不動産や私道などが記載されない場合があります。そのため、相続財産の網羅的な確認には名寄帳の取得が望ましいとされています。

Q3:もっとスムーズに不動産を確認できませんか?

相続登記の義務化により、令和8年2月から、法務局でも不動産の所有者を確認できる「所有不動産記録証明制度(仮称)」がスタートします。

名寄帳は各市区町村に請求しなければならない一方で、この制度であれば法務局のみで請求できるため、非常にスムーズに相続不動産を確認できます。

まとめ:名寄帳は相続登記・相続税申告の「抜け穴」を塞ぐ必須書類

名寄帳は、相続登記や相続税申告において、不動産の「抜け穴」を塞ぐために欠かせない、非常に重要な書類です。

この名寄帳の調査を怠ると、後になって予期せぬ不動産が発見され、手続きのやり直しや相続人同士の新たな争いの火種になるリスクを負うことになります。

名寄帳の調査は、故人の転居履歴を辿り、全国の市町村を一つ一つ調査していく手間のかかる作業です。この複雑な調査と、その後の登記簿謄本との正確な照合作業を、司法書士などの専門家に依頼することで、登記漏れのリスクを最小限に抑えることができます。

安心して相続手続きを進めるためにも、不動産調査は名寄帳をフル活用し、専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。

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