意思能力(判断能力)の判断基準とは?|契約・遺言の有効性を左右する重要ポイント

契約や遺言などの法律行為を行う際、その行為が有効かどうかを判断する上で「意思能力」は極めて重要な要素です。特に高齢者や認知症の方が関与する場合、意思能力の有無が争点となることが少なくありません。

本記事では、意思能力の基本的な概念から判断基準、実務上の対応策までを詳しく解説します。

意思能力とは?

まずは、意思能力という言葉が法律上どのような意味を持つのか、そしてその重要性について理解しておきましょう。

意思能力の定義と法律上の位置づけ

意思能力とは、自己の行為が法的にどのような結果をもたらすかを理解し、判断する能力を指します。

民法第3条の2では、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と規定されています。

つまり、意思能力を欠いた状態で行われた契約や遺言などの法律行為は、原則として無効となるのです。

判断能力との違い

「判断能力」という言葉は日常的にも使われますが、法律上の「意思能力」とは異なる概念です。

判断能力は、物事の真偽を見極め、状況を正しく理解し、適切な判断を下すための広範な能力を指します。

一方、意思能力は、特定の法律行為を行うために必要な能力であり、自己の行為が法的にどのような結果をもたらすかを理解する力を意味します。

意思能力の判断基準

では、意思能力があるかどうかはどのように判断されるのでしょうか?ここでは、法律実務で用いられる基準や、具体的な評価要素について解説します。

判断基準の概要

意思能力の有無は、個々の具体的な法律行為ごとに、行為者の能力や知能などの個人差を踏まえた実質的な個別的判断によって行われます。

画一的・形式的な基準ではなく、問題となる法律行為の種類や内容によっても判定が異なり得ます。

一般的には、小学校低学年程度の理解力があれば意思能力があるとされますが、具体的な判断はケースバイケースです。

判断材料となる要素

意思能力の判断においては、医学的な評価も重要な材料となります。

例えば、認知機能検査である長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)の結果が参考にされることがあります。

ただし、これらの検査結果だけで意思能力の有無を判断することはできず、本人の言動や行為の内容、状況などを総合的に考慮する必要があります。

意思能力が問題となるケース

意思能力の有無が実際に問題になるのはどんな場面でしょうか。

代表的な事例として、高齢者の契約や遺言書の作成があります。

契約時の注意点

高齢者が契約を締結する際、その意思能力が問題となることがあります。

特に、認知症の症状がある場合や、複雑な契約内容を理解するのが難しい場合には、契約の有効性が争われる可能性があります。そのため、契約締結時には、本人が契約内容を十分に理解し、自らの意思で同意していることを確認することが重要です。

遺言の有効性

遺言の有効性も、作成時の意思能力に大きく依存します。

遺言者が遺言内容を理解し、自らの意思で作成したことが求められます。意思能力が欠けていた場合、遺言は無効とされる可能性があります。そのため、遺言作成時には、公証人の関与や医師の診断書の取得など、意思能力を証明するための措置を講じることが推奨されます。

意思能力を補完する制度

意思能力に不安がある場合、すぐに契約や遺言が無効になるわけではありません。

実は、本人の判断能力を補い、法的な手続きを安全に進めるための「補完的な制度」が存在します。

ここでは、代表的な2つの制度である「法定後見制度」と「任意後見制度」について、仕組みや利用のメリットをわかりやすく解説します。

法定後見制度

法定後見制度は、すでに判断能力が不十分な方を対象とした制度です。

本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つに分類され、それぞれ家庭裁判所が後見人等を選任します。

法定後見制度を利用するには、以下のようなステップで家庭裁判所への申し立てが必要です。

①申立書の提出

まずは、本人や親族、市町村長などが家庭裁判所に対して申立書を提出します。

この際、本人の戸籍謄本や医師の診断書などの添付書類も必要です。

②家庭裁判所による調査と審問

裁判所は、本人の判断能力や家庭の状況を確認するため、医師の診断や関係者への聞き取りを行います。

本人との面談(審問)が行われることもあります。

③後見等の必要性の判断と審判

調査結果をもとに、後見・保佐・補助のいずれが適切か、また支援の範囲について裁判所が判断し、審判が下されます。

④後見人の選任通知と登記

審判が確定すると、選任された後見人に通知され、後見人は正式に職務を開始できます。

選任される後見人は、親族がなることもありますが、利害対立や専門性の必要性などを考慮して、司法書士・弁護士などの専門家が選ばれることも多いです。

任意後見制度

任意後見制度は、「自分の判断能力が十分なうちに、将来の後見人を自ら指定しておく制度」です。

将来的に認知症などで意思能力が低下する可能性がある方にとって、非常に有効な準備手段です。

たとえば、「将来、子どもに財産管理を任せたい」「信頼している専門家に生活支援をお願いしたい」といった希望がある場合に、この制度を活用すれば、法的にも確実な支援体制を整えることができます。

任意後見制度の利用には、以下のようなステップを踏む必要があります。

①公正証書で「任意後見契約」を結ぶ

まずは、本人が意思能力を有している段階で、将来後見人になってほしい相手と「任意後見契約」を交わします。

この契約は公正証書で作成され、公証役場で手続きを行います。

契約内容には、財産管理や医療契約の代行など、後見人が行う業務の範囲を明記しておくことが重要です。

②家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て

任意後見契約を結んだだけでは、すぐに後見が始まるわけではありません。

実際に本人の判断能力が低下した段階で、家庭裁判所に「任意後見監督人の選任申立て」を行います。

監督人は、後見人の行動をチェックする役割を担い、契約に基づいた適切な支援が行われるよう監督します。

③監督人のもとで、任意後見人が支援を開始

任意後見監督人が選任されると、いよいよ任意後見人による支援がスタートします。
後見人は、契約内容に沿って財産管理や契約行為の代理などを行い、本人の生活を法律的に支えていくことになります。

なお、監督人がついているため、後見人による不適切な行為が行われにくいという安心感もあります。

任意後見制度のメリット

任意後見制度の最大のメリットは、「自分の意思で信頼できる後見人を選べること」にあります。

法定後見と違って、家庭裁判所が後から勝手に選ぶのではなく、自分の意志をあらかじめ反映できるという点が、大きな安心材料です。

また、財産管理だけでなく、医療・介護・住まいに関することなど、生活全体を視野に入れた柔軟な支援契約が可能です。

ただし、制度の運用には家庭裁判所の監督が必要であり、契約内容や実務の運用次第では柔軟性に制限が出ることもあるため、事前に専門家のサポートを受けながら準備を進めることが大切です。

よくある質問(FAQ)

意思能力に関する制度や実務については、疑問が多く寄せられる分野です。ここでは、よくあるご質問を取り上げて、丁寧にお答えします。

Q1. 意思能力がない場合、契約は無効になりますか?

はい。意思能力が欠けている状態で締結された契約は、無効とされる可能性があります。ただし、無効を主張するには、意思能力が欠けていたことを証明する必要があります。

Q2. 認知症の方でも遺言書を作成できますか?

認知症の方でも、意思能力があると判断されれば、遺言書を作成することが可能です。ただし、症状の程度によっては、遺言の有効性が争われることがあります。

Q3. 意思能力の有無はどのように判断されますか?

意思能力の有無は、契約時の本人の言動や医学的診断、契約内容の理解度などを総合的に判断して決定されます。

まとめ

意思能力は、法律行為の有効性を判断する上で極めて重要な要素です。特に高齢者や認知症の方が関与する場合には、意思能力の有無が争点となることが多く、慎重な対応が求められます。

相続トラブル等を防ぐためにも、生前に相手方の意思能力を確認し、必要に応じて専門家の関与を検討することが重要です。

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