相続分の譲渡と相続分の放棄の違いとは?|手続き・注意点・実務での使い分けを解説
相続手続きは、精神的にも大きな負担が伴うことがあります。その際によく検討されるのが、「相続分の放棄」と「相続分の譲渡」という2つの方法です。
この2つは混同されがちですが、法的な意味や手続きなど、大きな違いがあります。
本記事では、それぞれの違いと注意点について詳しく解説します。
相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、自分が持っている相続分を他人に“譲る”手続きです。
有償で「売る」こともできますし、無償で「譲る」ことも可能です。
相続分を譲渡できる相手
「相続分の譲渡をしたいが、もともと相続の権利を持つ人にしか譲れないのでは?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。
しかし、相続分の譲渡は基本的には誰にでも可能です。
もちろん、相続人同士であれば話がスムーズですが、第三者(知人・会社など)にも譲渡はできるため、「被相続人が生前お世話になった人に相続分を譲りたい」というケースにも対応できます。
ただし、こうした「身内以外の人」に譲る場合は、他の相続人とトラブルになる可能性があるため、注意が必要です。
相続分を譲渡するメリットとデメリット
相続分の譲渡は非常に便利な制度ではありますが、メリットばかりに目を向けると、後々の負担やトラブルの火種にもなりかねません。ここでは、譲渡によって得られる利点と、その裏にあるリスクを整理します。
メリット
相続分の譲渡によって、経済的・心理的な負担から解放されるケースもあります。具体的なメリットを見てみましょう。
相続分を現金化できる(有償譲渡の場合)
相続分を金銭で譲渡することで、遺産分割を待たずに資金を得られるため、急ぎの支出や債務返済などに充てたい人にとっては大きな利点です。
相続協議から手を引ける
遺産分割の交渉や対立に関わらずに済み、精神的な負担を軽減できます。相続協議の場での人間関係のストレスから距離を置きたい場合に有効です。
相続人間でバランスを取れる
たとえば「長男が生前に多く援助を受けていた」などの事情がある場合、他の相続人に譲渡することで、実質的な公平感を保てるというケースもあります。
デメリット
一方で、相続分の譲渡には見落とされがちな法的・経済的リスクがあります。トラブルを避けるためにも、これらの点を理解しておく必要があります。
譲渡後も借金などの責任を免れないことがある
譲渡しても、被相続人の負債(借金・保証債務など)について法的責任を問われることがあります。債権者からの請求は、相続人として残る限り免れないことも。
第三者への譲渡で関係が悪化する可能性がある
譲渡先が親族でない場合、他の相続人との信頼関係が壊れる可能性があり、遺産分割協議が複雑化するおそれもあります。
贈与税・譲渡所得税が発生することもある
相続分の譲渡が無償の場合、贈与とみなされて贈与税が課税されることがあります。有償譲渡でも譲渡所得が発生し、確定申告が必要になる場合もあるため、税務の確認は必須です。
相続分の放棄とは?
相続分の放棄は、法定相続分に基づく財産の取得を辞退するという意思表示をする行為です。
ただし、相続人であること自体は続きます。相続人が多すぎて話し合いが面倒、相続財産に魅力がない、そんなときに選ばれやすい選択です。
「相続放棄」との違いに注意
ここで混同されやすいのが「相続分の放棄」と「相続放棄」です。
相続放棄
「相続放棄」は、家庭裁判所に申述して、最初から相続人でなかったことにする制度です。
相続分の放棄
「相続分の放棄」は、書面で放棄し、相続人ではあり続けるが、取り分を受け取らない意思表示です。
相続分の譲渡と相続分の放棄の違い
相続に関する用語はややこしく、特に「相続分の譲渡」と「相続分の放棄」は混同されやすい概念です。
ですがこの2つ、法的な性質も結果もまったく異なります。
以下では、両者の違いを「法的な視点」「相続分の行き先」「債務との関係」などから整理します。
法的な構造の違い
既に説明した通り、「相続分の譲渡」は、相続権そのものを“特定の相手”に渡す行為です。相続分を譲られた人(譲受人)はその相続分をもって遺産分割協議に参加します。
一方、「相続分の放棄」は、相続分だけを“手放す”行為を指します。誰か特定の人に相続分が移るわけではありません。
具体例で比較
子ども3人が1/3ずつの相続分を持っており、Aさんが相続分の放棄・譲渡を行う場合、違いは以下のような形になります。
ケース | Aさんが選んだ行動 | 相続分の分配 | 他の相続人への影響 |
相続分の放棄 | 放棄した | BとCで1/2ずつになる | 影響あり:増える |
相続分の譲渡 | Cさんに譲渡した | Bが1/3、Cが2/3に | Cのみ影響あり:Bは1/3のまま |
つまり、「自分の相続分を他人にあげるだけ」の譲渡と、「相続分を手放し、他の人に自動分配される」放棄では、他の相続人に与えるインパクトが大きく違うということです。
債務への影響について
どちらの制度にも共通する注意点があります。
それは、相続分を譲ったり放棄したとしても、相続人としての債務責任から完全に逃れられるわけではないという点です。
相続分の放棄をしても、相続人であることに変わりはないため、債権者からの請求が届くことがあります。
相続放棄(家庭裁判所での正式な手続き)をしない限り、借金の相続も含めて負の遺産に関与する可能性は残るので、注意しましょう。
手続きの流れと必要書類まとめ
相続分の譲渡と放棄の手続きには、それぞれ異なる流れと必要書類があります。
以下に、手続きの概要を示します。
相続分譲渡の手続きフローと書類
相続分の譲渡では、契約に基づいて他の相続人や第三者に相続分を引き渡すことになります。
口頭の約束だけではトラブルになるため、必ず書面で手続きを行うのが原則です。
①譲渡人と譲受人が契約を締結
まずは、譲渡する人(譲渡人)と、受け取る人(譲受人)の間で相続分譲渡契約を結びます。
有償・無償どちらでも構いませんが、契約内容はできるだけ明確に記載しましょう。
②相続分譲渡証書を作成する
譲渡は口頭のみでも可能ですが、トラブルを避けるため、契約の内容を反映した「相続分譲渡証書」を作成することをおすすめします。
公正証書である必要はありませんが、署名・押印・日付・印鑑証明は必須です。
③他の相続人への通知
譲渡があったことは、他の相続人全員に通知しておく必要があります。
通知は内容証明郵便が望ましく、後日「聞いてない」と揉めないように証拠を残しておきましょう。
④遺産分割協議への参加
譲受人は、以降の遺産分割協議に相続人の代わりに参加します。
譲渡が完了したことで、譲渡人は相続分について協議から原則として離脱します。
相続分の放棄の手続きフローと書類
相続分の放棄では、あくまで相続人としての地位は維持しながら、「財産の取り分はいらない」と表明する手続きになります。
ここでも書面での明確な意思表示が重要です。
①遺産分割協議書で手続きをする
「相続分を放棄する」旨を遺産分割協議書に明記すれば、基本的には手続きが完了します。
通常は自署+押印で作成し、印鑑証明書を添付しておくと良いでしょう。
②家庭裁判所への書類提出が必要なケースも
遺産分割協議が、家庭裁判所で調停・審判として行われている場合は、上記のような協議書での手続きができません。
その場合は、「相続分放棄届出書件相続分放棄書」、「即時抗告権放棄書」を家庭裁判所に提出し、「排除決定」を受けることで申請が完了します。
まとめ|相続分の譲渡と放棄、それぞれの違いと使い分けを理解しよう
相続に関する判断は、感情だけでなく法律・税務の複雑な要素が絡みます。
特に相続分の譲渡と相続分の放棄は、一見似ていますが、法的な意味・影響範囲・実務での使い方が大きく異なります。
「とりあえず放棄した」「譲ったつもりが揉めた」というトラブルは本当によくあります。
だからこそ、事前に制度の違いを知っておくこと、そして早めに専門家のアドバイスを受けることが、家族の未来を守る第一歩です。
ゼヒトモ内でのプロフィール: 司法書士法人アレスコ事務所, ゼヒトモの司法書士サービス, 仕事をお願いしたい依頼者と様々な「プロ」をつなぐサービス