国際相続(渉外相続)|海外に財産がある・相続人が外国籍の場合の手続き
「故人がハワイやシンガポールに預金口座や不動産を持っている」
「相続人の一人が海外在住で外国籍を取得しており、日本の戸籍謄本や印鑑証明書が取れない」
このように、被相続人(亡くなった人)や相続人の国籍・居住地、あるいは相続財産が国境をまたぐケースを「国際相続(渉外相続)」と呼びます。
国際相続は、日本の国内だけで完結する一般的な相続と異なり、適用される法律や手続きの手順、税金の計算方法が大きく異なります。
本記事では、国際相続の基礎知識から海外特有の手続きである「プロベート」、二重課税の調整方法、具体的な書類の準備まで詳しく解説します。
国際相続(渉外相続)とは?国内相続と決定的に違う理由
国際相続が発生した場合、日本の民法や税法だけで機械的に処理を進めることはできません。
まずは、なぜ国際相続がこれほど複雑になり、難易度が高くなるのかという根底の理由を把握しておきましょう。
被相続人・相続人の国籍や「外国財産」の存在が関わる相続
被相続人や相続人に外国籍の人が含まれるケースや、海外に不動産、預貯金、株式などの外国財産が存在する場合の手続き全体を国際相続と呼びます。
国際化や資産運用の多角化に伴い、近年急速にご相談が増えている分野です。
国によって「法律」と「税制」の仕組みが大きく異なる
国内相続と決定的に違うのは、「どの国の法律に従って遺産を分けるか」という問題(国際私法)と、「どこにどんな税金を納めるか」という国際課税の問題が同時に発生する点です。
日本では亡くなったと同時に当然に相続人に所有権が移転しますが、海外では裁判所を挟まないと所有権が移転しない国もあるなど、法律や制度の前提が国ごとに根本から異なります。
どの国の法律が適用される?「準拠法」と「相続統一主義」のルール
国際相続において最初に行わなければならないのが、「どの国の法律(民法)を基準にして遺産分割を進めるか」という準拠法(じゅんきょほう)の確定です。
日本の法(通則法)における「本国法(被相続人の国籍)」原則
日本の「法の適用に関する通則法」第36条では、「相続は、被相続人の本国法による」と定められています。つまり、原則として亡くなった方の国籍がある国の法律が準拠法となります。
例えば、亡くなった方が日本国籍であれば、たとえアメリカや東南アジアに外国財産があったとしても、遺産を「誰が・どのような割合で相続するか」という権利関係は日本の民法に基づいて判断することになります。
「相続統一主義」と「相続分割主義」の違いに注意
ただし、世界各国の法律には、財産の種類を問わず一括して一つの法律を適用する「相続統一主義」をとる国と、財産の種類によって適用する法律を分ける「相続分割主義」をとる国があります。
相続統一主義
相続財産が不動産か動産かを区別せず、原則として一つの準拠法を相続全体に適用する考え方です。
日本では、法の適用に関する通則法により、原則として被相続人の本国法を相続全体の準拠法としています。
相続分割主義
国や地域によっては、不動産にはその所在地の法律、動産には被相続人の住所地やドミサイル(本拠)などを基準とする法律を適用するなど、財産の種類によって準拠法を分ける考え方が採られています。
ただし、国際私法のルールは国・州・地域によって異なるため、海外財産がある場合は、財産所在地の現地法を個別に確認する必要があります。
海外の資産はどう処分する?英米法圏の手続き「プロベート」の壁
アメリカやイギリスなどでは、遺産の内容や保有方法によって、裁判所を通じたプロベート(Probate)などの手続きが必要になることがあります。
プロベート(裁判所による遺産管理・認証手続き)とは?
日本では、被相続人が亡くなった瞬間に相続人が当然に財産を承継します。
しかし、英米法圏の国々では、亡くなった方の財産は一旦家庭裁判所(Probate Court)の管轄下に置かれます。
裁判所で遺言書の有効性を確認し、裁判所が指名した「遺産管理人(ExecutorまたはAdministrator)」が亡くなった方の借金を返済し、税金を清算した上で、最後に残った財産を相続人に分配するという厳格な裁判手続きが行われます。これがプロベートです。
プロベートにかかる期間と費用(年単位の長期化と現地の弁護士費用)
プロベートの手続きは現地の法律に従って現地の裁判所で行う必要があるため、現地の弁護士を雇用しなければならないケースもあります。
手続き完了までには1年〜3年以上の長い年月がかかることが一般的であり、現地弁護士への報酬や裁判費用として高額な実費が発生する傾向があります。
このプロベートをいかに円滑に進めるかが、外国財産を無事に引き継ぐための大きな鍵となります。
税金はどうなる?「二重課税の調整」と外国税額控除
海外資産を相続する際、遺族を悩ませるのが「日本と海外の両方で税金を取られてしまうのではないか」という税金の問題です。
日本と現地国の両方で課税される「二重課税」のリスク
日本の相続税では、相続人や被相続人の住所、国籍、過去の日本国内での居住状況などによって、日本の相続税が課される財産の範囲が異なります。
一方で、外国財産が存在する現地国においても、その国の法律に基づき相続税や遺産税(Estate Tax)などが課税されることがあります。
これにより、同じ一つの財産に対して日本と現地国の双方で税金が課されてしまう「二重課税」の状態が発生します。
「外国税額控除」を活用した二重課税の調整方法
この不合理な重税を防ぐために、日本の税務・税法には二重課税の調整を行う仕組みとして「外国税額控除(がいこくぜいがくこうじょ)」が用意されています。
外国税額控除を利用することで、海外で既に納付した相続税に相当する金額を、日本で計算した相続税額から一定の限度額まで差し引くことができます。
これにより、国境をまたぐ相続においても適正な税額に調整することが可能となります。
相続人に外国籍・海外在留者がいる場合の実務(戸籍や書類の代用)
相続人が海外に住んでいる場合、日本国内に住民登録がなければ、通常の住民票や印鑑登録証明書を取得できないことがあります。
また、日本国籍を有しない相続人については、日本人と同じような戸籍制度がない国も多いため、実務では以下のような代用書類を準備して手続きを進めます。
海外在住者の「署名証明」と「在留証明」、外国籍相続人の代替書類
日本国籍を持ったまま海外に居住している人は、日本の印鑑登録証明書や住民票を取得できない場合があります。その場合、在外公館が発行する署名証明や在留証明を利用できることがあります。
一方、外国籍の相続人の場合は、日本の在外公館が発行する在留証明・署名証明の対象とはならないことがあるため、本国または居住国の公的機関や公証人が作成した証明書などを利用します。
外国語書類の「日本語翻訳」と「アポスティーユ(公認証明)」
外国語で作成された書類を日本の法務局へ提出する場合は、登記手続きで必要となる部分について日本語の訳文の添付が求められます。
また、公文書が真正なものであることを証明するため、外務省や現地政府からハーグ条約に基づく「アポスティーユ(Apostille)」と呼ばれる認証を取得するよう求められるケースが多く見られます。
まとめ:国際相続は国ごとの専門知識を持つプロへの相談が不可欠
国際相続は、どの国の法律を適用するかを決める「準拠法」の検討から始まり、英米法圏での「プロベート」への対応、現地と日本での税金の「二重課税の調整」、国境をまたぐ特殊な書類の調達など、専門的なハードルが極めて多く存在します。
言語の壁や時差に加えて、法律と税務の両面からアプローチする必要があるため、個人だけで完結させることは非常に危険です。
海外資産や外国籍の相続人が関わる相続が発生した際は、国際相続(渉外案件)に豊富な実務実績を持つ弁護士、司法書士、税理士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。
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