合同会社の業務執行社員が亡くなった場合、業務執行社員の地位は承継されるか?基礎知識から徹底解説!
「合同会社の経営者が亡くなったら、その出資と経営権はどうなるんだろう?」
「家族で経営している合同会社だけど、もしもの時に事業を継続させるにはどうしたらいい?」
合同会社(LLC)の社員(業務執行社員、代表社員)が死亡した場合、その相続手続きは、株式会社よりも相当複雑になるケースが多いです。
なぜなら、株式会社が「経営と所有が分離」している(経営は取締役、所有は株式)のに対し、合同会社は「経営と所有が一体」である「社員という地位」が相続の対象になるためです。
この社員という地位は、個人の能力や信頼関係に基づく「属人性が強い」ため、原則として自動的に相続されることはありません。
本記事では、この重要な論点について、「原則」と「例外」を明確にしながら、合同会社が取るべき具体的な手続きと事前対策を解説します。
結論:業務執行社員の死亡による地位の承継は原則「不可」
合同会社(持分会社)の法的性質を理解することが、承継の可否を判断する鍵となります。
合同会社における社員の地位の特殊性
合同会社では、「出資者=社員」であり、社員は会社の所有者であると同時に、原則として会社の業務を執行する権限を持っています。
この「人」としての側面が、承継のルールに大きく影響します。
業務執行社員と出資者(社員)の区別
社員全員が業務執行を行うのが原則ですが、定款で特定の社員のみを業務執行社員と定めることも可能です。
会社の「人」としての側面(属人性)が強い合同会社の法的性質
合同会社は、社員間の信頼関係(人的信頼)を重視する「持分会社」であり、社員の個性や能力に依存する側面が強いのが特徴です。
死亡時の基本原則(会社法第607条)
この属人性の強さゆえに、会社法は原則として、以下のように定めています。
- 業務執行権と社員の地位は、原則として相続されない(相続人は社員の地位を承継しない)。これは、「誰と事業を行うか」という契約関係が、個人の死亡によって終了すると考えられるためです。
死亡時の処理の流れ(基本)
業務執行社員が亡くなった場合、特約がない限り、故人は会社を「退社」したものとして扱われます。
会社は死亡社員の相続人に対し、その「持分払戻し(出資額に相当する金銭)」を行う義務が発生します。
相続人は、社員の地位そのものではなく、出資に対する金銭を受け取る権利を持つことになります。
「承継不可」の原則に対する重要な例外:定款による特約
原則では承継はできませんが、合同会社では定款(会社のルール)に定めることで、この原則を覆し、地位を相続人に引き継ぐことが可能です。
なぜ定款の特約が必要なのか?
特に家族経営の会社や、特定のノウハウを承継させたい会社にとって、この特約は経営の継続性を確保するために不可欠です。
また、経営の安定性の維持を求められる場合にも、定款特約は有効な手段となります。
定款特約の内容と効果
会社法は、定款に「社員が死亡しても退社しない」旨の特約を定めることを認めています。
特約がある場合、死亡した社員の**「社員の地位(出資持分)」**は、相続人に承継されます。
この特約がない場合、相続人は金銭の払戻しを受ける権利しか持ちません。
承継後の注意点
定款特約により相続人が社員の地位を承継しても、自動的に亡くなった社員の経営権が引き継がれるわけではありません。
相続人が「業務執行社員」になるには、後述する別途の手続きが必要となります。
【実務対応】相続人が「社員の地位」を承継した場合の手続き
定款特約によって社員の地位を承継した後も、会社運営を滞りなく行うためには、業務執行権に関する手続きを速やかに行う必要があります。
社員の地位を承継した後の法的な論点
社員の地位は承継されましたが、その時点ではまだ「単なる出資者」としての地位です。
業務執行権と代表権は、自動的には承継されません。
業務執行社員としての権限を得るには、正式な手続きを経る必要があります。
相続人を「業務執行社員」にするための手続き
承継した相続人を業務執行社員とするためには、以下の手続きが必要です。
ステップ1:総社員の同意
定款に別段の定めがない限り、原則として他の全社員の同意が必要です。
この同意を得て、初めて業務執行社員としての地位が確定します。
ステップ2:業務執行社員の「変更登記」
業務執行社員は登記事項であるため、死亡による退任登記と、相続人による就任登記(氏名、住所など)を2週間以内に法務局に申請しなければなりません。
持分と出資の払戻し(業務執行社員への就任を辞退する場合)
社員の地位を承継した相続人が、社員を続ける意思がない場合は、地位を辞退し、金銭を受け取ることになります。
承継した社員の地位を辞退し、会社に対して出資持分の払戻しを請求する手続きを採ります。
業務執行社員の死亡が会社に与える影響と対策
業務執行社員の死亡は、会社の法的・実務的な運営に大きな影響を及ぼし、放置すると大きなトラブルにつながります。
業務執行社員が1名だった場合の重大なリスク
業務執行社員が亡くなり、他に業務を執行する社員がいない場合、会社運営(特に契約締結や各種手続き)が一時的に停止する可能性があります。
これは、業務執行社員の欠員により会社法上の要件を満たせなくなるためです。
登記簿謄本上の問題
死亡による業務執行社員の変更登記は、会社法上の義務です。
該当する社員の「退任登記」および「新たな社員の就任登記」を死亡から2週間以内に申請しない場合、「過料(かりょう)」という制裁金の対象となるリスクがあります。
事前対策:定款の見直しと事業承継計画
トラブルを未然に防ぎ、事業を継続させるためには、生前の対策が不可欠です。
以下では、生前に可能な対策について、詳しくご紹介します。
予備の業務執行社員の選任
予備の業務執行社員を定めておくなど、社員の欠員に備えた体制を構築しておきましょう。
定款への特約明記
社員同士の合意に基づき、承継に関する特約を定款に明記し、遺言書の作成と連携させておくことが極めて重要です。
まとめ:合同会社の存続のために必要な「事前準備」
合同会社の業務執行社員の死亡は、会社の存続に関わる重大な事象であり、「定款の特約の有無」が、承継の可否を決める鍵となります。
相続は原則「退社」として処理されるケースが多く、承継させるには特約が必須です。
この基本原則を理解しておくことが、事業承継の第一歩となります。
会社の体制を維持し、相続トラブルや登記忘れによる過料を避けるためにも、事前に対策しておくことが何よりも重要です。
会社の定款整備、事業承継計画、及び変更登記手続きには、専門的な判断が求められます。
予期せぬ事態で経営を停滞させないためにも、司法書士や弁護士といった専門家に、現在の定款の見直しや事業承継に関する相談をされることを強くお勧めします。
ゼヒトモ内でのプロフィール: 司法書士法人アレスコ事務所, ゼヒトモの司法書士サービス, 仕事をお願いしたい依頼者と様々な「プロ」をつなぐサービス