相続人がいない方の財産問題|相続財産清算人と不在者財産管理人の違いと手続き
行方不明になったご家族や、身寄りのない故人の財産。その管理や整理が必要になった時、「相続財産清算人」と「不在者財産管理人」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。この二つの制度は、名前が似ていますが、その役割と目的は全く異なります。
相続財産清算人とは、相続人がいない「亡くなった人」の財産を清算する人です。
不在者財産管理人とは、行方不明の「生存している人」の財産を管理・保存する人です。
この違いを理解することが、財産問題を解決するための第一歩となります。
本記事では、相続財産清算人と、不在者財産管理人の違いについて、分かりやすく説明していきます。
相続財産清算人とは?役割と手続きのポイント
相続財産清算人は、故人に相続人がいないという非常に特殊な状況で活躍します。故人の財産をそのまま放置しておくと、債権者(お金を貸していた人)などが困ってしまいます。
相続財産清算人の役割と職務内容
選任された相続財産清算人は、家庭裁判所の監督のもと、故人の財産を管理・清算します。その主な職務は以下の通りです。
相続人・債権者捜索の公告
故人の財産に関する利害関係者を見つけるため、官報に公告を掲載します。
債務の弁済
故人の借金などの債務を、故人の財産の範囲内で返済します。
特別縁故者への財産分与
故人と特別な関係にあった人(内縁の妻など)の申立てがあれば、財産を分与する手続きを行います。
また、公告後も相続人が現れなかった場合は、最終的に財産は国庫に帰属されます。
相続財産清算人の選任が必要なケース
相続財産清算人を選任する主なケースは以下の2つです。
- 故人の死後、戸籍調査を尽くしても相続人が見つからない
- すべての相続人が相続放棄をして、故人の財産を管理する人がいなくなった
不在者財産管理人とは?役割と手続きのポイント
不在者財産管理人は、行方不明の人が生きていることを前提に、その人の財産を適切に管理・保存する役割を担います。家族であっても、不在者の財産を勝手に売却したり、処分したりすることはできません。
不在者財産管理人の役割と職務内容
不在者財産管理人は、以下のような職務を通して、不在者の財産が散逸したり、価値が下がったりするのを防ぎます。
財産の調査・目録作成
不動産や預貯金など、不在者の財産をすべて調査し、目録を作成します。
財産の管理・保存
家屋の修繕や、不動産からの家賃収入の受け取り、固定資産税の支払いなどを代行します。
重要な財産処分行為
不動産の売却など、不在者の財産に大きな影響を与える行為は、必ず家庭裁判所の許可を得なければなりません。
不在者財産管理人の選任が必要なケース
不在者財産管理人を選任する主なケースは以下の通りです。
- 家族が行方不明になり、生死が不明なまま、その人の財産(不動産など)が放置されている。
- 行方不明の家族名義の契約(賃貸契約など)を、代わりに更新したり解約したりする必要が生じた。
【具体的な手続き】申立てから完了までの流れと必要書類
相続財産清算人と不在者財産管理人は、選任の目的は異なりますが、その手続きは両者とも家庭裁判所を通じて行います。
申立てから選任までの共通する流れ
両者とも、申立てから選任までの基本的な流れは同じです。
①家庭裁判所への申立て
必要書類を揃え、故人または不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
②裁判所による事実関係の調査
裁判所は、申立て内容や財産状況について事実関係を調査します。
③管理人・清算人の選任と職務開始
調査の結果、必要性が認められれば、家庭裁判所が管理人を選任し、職務が開始されます。
申立てに必要な主な書類
両手続きに共通して必要となる主な書類は以下の通りです。
- 故人または不在者の戸籍謄本(出生から現在まで)
- 不在または死亡を証明する書類
- 申立人の利害関係を証明する書類
- 財産目録と関連資料(不動産登記簿謄本、預貯金通帳の写しなど)
気になる費用は?報酬と申立て費用
これらの手続きには費用が発生します。費用が誰から支払われるのか、事前に把握しておくことは大切です。
管理人・清算人の報酬
管理人・清算人の報酬は、原則として管理する財産から支払われます。
もし財産が足りない場合は、申立人が負担することになります。
報酬額は、財産の額や管理の複雑さなどを考慮して、家庭裁判所が決定します。
申立て費用
申立てには、裁判所に支払う収入印紙代や、官報公告費用、書類送付のための予納郵券(郵便切手)などが発生します。
よくある質問(FAQ)
ここでは、相続財産清算人や不在者財産管理人について、よくあるご質問にお答えします。
Q1:不在者が生死不明の場合、すぐに失踪宣告を申立てるべきですか?
いいえ。まずは不在者財産管理人の選任を検討するのが一般的です。失踪宣告は、不在者が法律上「死亡した」とみなされるため、ご家族の関係に大きな影響を与えます。
Q2:どちらの手続きも、個人で行うことは可能ですか?
理論上は可能ですが、戸籍の収集や必要書類の準備が非常に複雑なため、一般の方には難しいのが現状です。手続きに不備があると、時間や費用が無駄になるリスクもあります。
Q3:不在者財産管理人が選任されると、家族は財産に一切手を出せなくなりますか?
はい。管理人が選任された後は、不在者の財産はすべて管理人の権限下に置かれます。相続人やご家族であっても、家庭裁判所の許可なく財産を動かすことはできません。
Q4:相続財産清算人が選任されると、故人の借金はすべて支払わなければいけませんか?
はい。相続財産清算人は、故人の財産の中から債務を弁済する義務を負います。もし財産よりも借金の方が多ければ、清算人はその範囲内で債務を支払うことになります。
まとめ
「相続財産清算人」と「不在者財産管理人」は、似ているようで全く異なる制度です。この二つの違いは、「誰の財産を」「何のために」管理・清算するか、という点にあります。
- 相続財産清算人:亡くなった方の財産を清算するための制度。
- 不在者財産管理人:行方不明の生存者の財産を管理・保存するための制度。
これらの手続きは複雑で、ご自身のケースがどちらに当てはまるか判断に迷うこともあるでしょう。また、戸籍調査や必要書類の収集には専門的な知識が不可欠です。
もし、ご家族の財産問題でお悩みでしたら、一人で抱え込まず、専門家である司法書士にぜひご相談ください。プロの視点から、ご相談者様の状況に最適な解決策を提示し、手続きを円滑に進めるお手伝いをさせていただきます。
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