障がいのある子の「親なきあと」をどう守る?家族信託(民事信託)で生活保障を実現する仕組みと注意点を解説
障がいを持つお子様を育てる親御様にとって、避けて通れないのが「自分たちが亡くなった後、この子はどうやって生活していくのか」という、いわゆる「親なきあと問題」です。これまで生活を支えてきた親がいなくなった後、お子様の金銭管理や身上保護を誰に託すべきか、不安を感じるのは当然のことでしょう。
その解決策の一つとして今、注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。この記事では、家族信託がどのようにお子様の生活保障に役立つのか、その仕組みやメリット、注意点をわかりやすく解説します。
障がいのある子の将来への不安「親なきあと問題」とは
「親なきあと問題」は、単なる経済的な問題だけでなく、お子様の生活の質(QOL)をどう維持するかという切実な課題です。
まずは、多くの親御様が直面する具体的な不安要素について整理してみましょう。
お子様の財産管理における課題
お子様が知的障がいや精神障がいをお持ちの場合、ご自身で預貯金の引き出しや家賃の支払い、福祉サービスの契約行為を行うことが難しいケースがあります。
親が元気なうちは代行できますが、親が亡くなったり、認知症などで判断能力を失ったりすれば、お子様の金銭管理はストップしてしまいます。
特に、銀行が本人の判断能力不足を察知すると「口座凍結」が行われるリスクがあり、生活費が引き出せなくなるという深刻な事態も想定されます。
また、悪質な詐欺のターゲットにされる危険性も無視できません。
遺言だけでは解決できない限界
「遺産をすべて子に残す」という遺言を書けば安心、と思われがちですが、実はこれだけでは不十分な場合があります。
遺言は「誰に遺産を渡すか」を決める強力な手段ですが、「渡した後の管理方法」を長期間にわたって縛ることはできません。
例えば、「毎月5万円ずつ生活費として渡してほしい」と遺言に書いても、相続した後にそのお金を誰がどう管理し、お子様のために支出し続けるのかという実務的な担保がないのです。
また、お子様が亡くなった後の「残った財産の行方」を、遺言で二代先、三代先まで指定することは日本の法律(遺言)では原則として不可能です。
家族信託(民事信託)が生活保障に有効な理由とメリット
家族信託は、信頼できる親族などに財産を託し、あらかじめ決めた目的に従って管理・運用してもらう制度です。
障がいのあるお子様の生活保障において、なぜこの制度が有効なのか、その主なメリットを見ていきましょう。
柔軟な生活費の支給が可能
家族信託を利用すれば、契約の中で「管理のルール」を非常に細かく決めることができます。
例えば、「毎月〇万円を子の生活費として定額で振り込む」「入所している施設の利用料を信託財産から直接支払う」「急な入院や冠婚葬祭の際には予備費から支出する」といった設計が可能です。
これにより、お子様が一度に多額の現金を手にすることによる浪費や紛失を防ぎ、親がいなくなった後も「必要な時、必要なお金が届く」という長期的な生活保障を実現できます。
財産の管理者を指定できる
信頼できる親族(兄弟姉妹やいとこなど)を「受託者(管理する人)」に指定することで、プロの視点ではなく「家族の想い」に基づいた管理が期待できます。
受託者は、親に代わってお子様の財産を管理し、お子様のために支出を行います。
また、親族だけでは管理が不安な場合や、受託者が適切に仕事をしているかチェックしたい場合は、司法書士などの専門家を「信託監督人」として配置することもできます。
家族信託と成年後見制度の違い:どちらを選ぶべき?
障がいのあるお子様の支援策として「成年後見制度」を検討される方も多いでしょう。
しかし、家族信託と成年後見制度は役割が異なります。
それぞれの特徴を正しく理解し、ケースバイケースで使い分けることが重要です。
財産管理の自由度と比較
成年後見制度は、家庭裁判所が選んだ後見人が財産を管理する制度ですが、その主目的は「本人の財産保護」にあります。
そのため、財産の使い道には厳格な制限があり、裁判所の監督下で保守的な管理が求められます。
例えば、親の想いとして「孫(子の兄弟の子)の入学祝いを出してあげたい」と思っても、後見人の判断では認められないことが多いです。
対して家族信託は、契約に基づいた「自由な管理」ができるため、お子様の豊かな生活や家族の絆を重視した柔軟な運用が可能です。
身上保護と財産管理の役割分担
ここで注意が必要なのは、家族信託はあくまで「財産管理」の制度であるという点です。
お子様の施設の入所契約や入院手続き、介護サービスの申し込みといった「身上保護(契約行為)」を親に代わって行う権限は、家族信託の受託者にはありません。
そのため、お子様の判断能力が不十分で、契約行為にサポートが必要な場合は、お金の管理は「家族信託」で行い、契約行為などの身上保護は「成年後見制度」で行うという、両制度の「併用」が最も安心な選択肢となることが多いです。
【実例】障がいのある子のための家族信託の仕組み
お子様の生活を長期にわたって、それこそ数十年単位で守るためには、家族信託特有の仕組みを組み合わせることが一般的です。具体的な活用イメージを確認しておきましょう。
受益者連続型信託(跡継ぎ遺贈型)の活用
通常の遺言では不可能な「次の次の代」までの財産の行方を指定できるのが、家族信託の大きな特徴である「受益者連続型信託」です。
例えば、「父(委託者)が亡くなった後は母が受益者となり、母が亡くなった後は障がいのある子が受益者となる。そしてその子が亡くなった後は、残った財産を長年支援してくれた福祉施設へ寄付する(あるいは面倒を見てくれた他の子へ引き継ぐ)」といった設計が可能です。
信託監督人による安心のサポート
受託者となる親族も、時間の経過とともに高齢化したり、状況が変わったりすることがあります。また、受託者がお子様のお金を使い込んでしまわないかという不安を払拭する必要もあります。
そこで、司法書士などの専門家を「信託監督人」に選任しておくことが推奨されます。
信託監督人は、受託者が契約通りに財産を管理しているか定期的にチェックし、報告を求めます。専門家の目が光っていることで、お子様の大切な財産が守られ、親族も安心して管理を継続できる環境が整います。
家族信託を利用する際の注意点とトラブルを防ぐポイント
非常にメリットの多い家族信託ですが、あらかじめ知っておくべきリスクや注意点も存在します。
制度を形骸化させないためのポイントを解説します。
受託者の選定と負担
財産を管理する「受託者」には、分別管理(自分の金と信託財産を分けること)や帳簿作成などの義務があり、相応の事務負担がかかります。
もし特定の兄弟姉妹に受託者を任せるのであれば、その負担に対して他の親族が理解を示していることが重要です。
感謝の気持ちを込めて「信託報酬」を支払う設計にしたり、事務作業をサポートする専門家をつけたりすることで、将来的な親族間の不公平感やトラブルを未然に防ぐことができます。
贈与税や相続税の発生タイミング
家族信託は、設定の仕方によって税金の発生タイミングが変わります。
基本的には「利益を受ける人(受益者)」が実質的な所有者とみなされるため、例えば親から子へ受益権が移ったタイミングで相続税などの対象となります。
特に重度の障がいをお持ちの方を受益者とする場合には「特定障害者に対する贈与税の非課税(最大6,000万円)」という特例が使えるケースもありますが、要件が非常に細かいため、必ず税理士や精通した司法書士による事前のシミュレーションが必要です。
まとめ
家族信託(民事信託)は、障がいのあるお子様の「親なきあと」の生活を支える、非常に強力で温かいツールとなります。「お金を遺す」だけでなく、「お金を使い続けてもらう」仕組みを作れることが、何よりの安心につながります。
ただし、この制度は設計の自由度が高い分、法務・税務・実務のすべてにおいて高度な専門知識が求められます。
「うちの場合はどうなるの?」「何から始めたらいい?」と少しでも不安を感じられたら、まずは一度、司法書士などの専門家に相談しましょう。
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