遺言の付言事項とは?法的な効力は?感謝や想いを伝える効果的な書き方

「遺言書を作成する際、財産の分け方だけでなく、家族へのメッセージを伝えたい」

「なぜこの遺産分割になったのか、相続人に納得してもらうにはどう書けばいい?」

遺言書は、亡くなった方の財産の分け方を法的に定める重要な文書です。

しかし、そこに書かれた内容がいくら法的・金銭的に公平であっても、故人の真意が伝わらなければ、残された家族の間に感情的な対立を生む原因になりかねません。

この「感情の溝」を埋めるために、遺言書の本文の末尾に添えられるのが付言事項(ふげんじこう)です。

本記事では、この付言事項の役割、最大のメリット、そして相続トラブルを未然に防ぐための効果的な書き方について解説します。

遺言の付言事項とは?基礎知識と役割

付言事項(ふげんじこう)は、遺言書の中で唯一、法的な効力を目的としない、特別なメッセージ欄です。

付言事項の定義と目的

付言事項とは、遺言書の末尾に添えられる、法的な効力を持たないメッセージ部分です。

その目的は、故人の率直な想いを相続人に伝えることにあります。

遺言の本文(法的効力)との明確な違い

遺言書は、「法的な効力を持つ事項」と「付言事項」で構成されています。

この区別を理解しておくことが重要です。

法的な効力を持つ事項

財産の承継(「誰に何を相続させるか」)、遺言執行者の指定、認知、後見人の指定など、法的に強制力を持つ事項は、本文に記述しなければなりません。

付言事項の役割

付言事項には法的な強制力はありません。

しかし、遺言の「円満な実現」を促す重要な役割を果たします。

例えば、本文で「全財産を長男に相続させる」と法的指示を出しても、付言事項でその理由を説明しなければ、他の相続人の納得を得るのは難しいでしょう。

付言事項の役割

遺言書の本文だけでは、「なぜこのような分け方にしたのか」という故人の真意や背景が伝わりません。

遺言書だけでは伝わらない「真意」を伝えることで、相続人の納得感を高めます。

遺産分割をめぐる相続人同士の感情的な対立を防ぐ、最高のクッション材としての役割を果たします。

付言事項がもたらす決定的なメリット

付言事項は法的な拘束力がないにもかかわらず、その存在が相続手続きの成否、ひいては家族の絆に決定的な影響を与えます。

メリット1:争いを未然に防ぎ、遺言の実現を円滑にする

遺産の分け方に不公平感が生じたときこそ、付言事項の真価が発揮されます。

まず、遺産分割の理由を明確にすることで、不公平感や疑念を解消します。

特に「特定の相続人に多く財産を渡す場合」の理由説明に効果的です。

「長男の介護に感謝しているから」など、金銭以外の背景を伝えることで、他の相続人の納得感を得やすくなります。

メリット2:家族の絆を守る「最後のメッセージ」

付言事項は、故人から家族への最後の、そして最も大切な手紙となります。

故人の率直な想いや感謝の気持ち、遺された家族への期待などを伝えることで、相続後の家族関係の維持に貢献します。

「争うことなく、仲良く暮らしてほしい」というメッセージは、法定相続分以上に重い意味を持ちます。

メリット3:法的な指示の実行をサポートする

付言事項は、遺言の本文で定めた法的な指示の実行を、受ける側に促す役割を果たします。

「遺言執行者」への依頼や、葬儀、供養に関する希望を詳細に伝えることで、遺言の実行がスムーズに進むようサポートします。

効果的な付言事項の書き方と具体的な例文

付言事項は、故人の感情が直接伝わる部分であるため、その書き方にはいくつかの基本原則があります。

付言事項を書く上での3つの基本原則

付言事項を書く際には、以下の3つの原則を守ることで、その効果を最大化できます。

「感謝」と「配慮」の姿勢を崩さない

相続人への不満や非難、過去の出来事に対する恨み節などは、かえってトラブルを誘発するため、避けるべきです。

常に感謝と配慮の姿勢で記述します。

具体的かつ丁寧に理由を説明する

「なぜ長男に多くしたのか」「なぜ次女の分を少なくしたのか」など、遺産分割の判断の根拠を明確にすることが、納得感につながります。

簡潔に、自分の言葉で伝える

回りくどい表現を避け、心から伝えたいメッセージを記述することが、感動や共感を呼びます。

ケース別 付言事項の例文

具体的なケースに応じて、以下のようなメッセージが考えられます。

ケース1:長男に自宅を相続させる場合

(例)「長男の○○へ。自宅は、あなたが同居し、献身的に私の介護と生活の面倒を見てくれたことへの感謝の気持ちとして、全てあなたに相続させます。他の兄弟もこの事情を理解してくれると信じています。」

ケース2:特定の相続人への遺産を少なくする場合

(例)「次女の○○へ。あなたの取り分が少なくて申し訳ないが、あなたが結婚する際に、住宅購入資金として既に〇〇万円を贈与しているため、公平を期すために、このような分割としました。どうか理解してほしい。」

ケース3:家族への感謝と今後の要望を伝える場合

(例)「私の大切な家族へ。これまで本当にありがとう。私の葬儀は、家族だけで質素に行いなさい。遺産は、私が亡くなった後も皆が仲良く暮らしていくための資金として、有効に活用してほしい。くれぐれも争いの種にしないでください。」

付言事項を記載する際の注意点とリスク

付言事項は非常に強力なツールですが、使い方を間違えると、かえって家族を傷つけたり、新たなトラブルの火種になったりするリスクもあります。

法的な効力を持たせることはできない

付言事項に法的な指示を書いても、それは無効となります。

付言事項に「この不動産をAに相続させる」と書いても、法的な効力はありません。法的な事項は、必ず遺言の本文に記述することが鉄則です。

感情的な表現による新たなトラブルのリスク

付言事項の書き方によっては、争いを避けるどころか、逆に深刻化させる可能性があります。

特定の相続人を非難したり、他の相続人を傷つけるような表現は、かえってトラブルを誘発し、家族関係を決定的に悪化させるリスクがあります。冷静で客観的な視点が必要です。

専門家(司法書士・弁護士)への相談の重要性

付言事項と本文の記述範囲を明確に分けるため、専門家のチェックが必要です。

法的な効力を持つ本文と、感情的な配慮のための付言事項の記述範囲を明確に分けることが重要です。プロの目で見て、遺言の内容が法的にも感情的にも矛盾していないか確認する必要があります。

まとめ:付言事項は「円満な相続」を実現する最後の手段

付言事項は、遺言書の「魂」とも言える部分であり、相続人の納得感を高める最高のツールです。

法的な効力はありませんが、故人の想いを率直に伝えることで、相続人同士の感情的な対立を防ぎ、遺言の円満な実現に大きく貢献します。

付言事項を記載する際は、法的な効力と感情的な配慮のバランスを取ることが非常に重要です。

また、遺言作成の専門家である司法書士は、法的に有効な本文作成に加え、あなたの家族構成や状況に合わせた付言事項の作成指導も行います。

公正証書遺言と付言事項の作成を依頼することで、法的にも感情的にも完璧な、あなたの想いを伝える遺言書を残すことができるでしょう。

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