遺言(遺贈)と登記の「単独申請」が可能に!制度の要件と注意点を解説
「遺言書の内容に従って不動産を相続したいのに、他の相続人が手続きに協力してくれない…」
「昔の登記に間違いがあったけど、名義人の所在が分からず修正できない!」
これらの問題の根本原因は、不動産登記が、原則として「登記権利者(登記を受ける人)」と「登記義務者(登記を失う人)」が共同で申請する必要がある、というルール(共同申請の原則)にありました。
しかし、この原則が原因で、上記のような登記義務者の非協力や所在不明により、正当な権利を持つ人が登記できないという問題が多発していました。
本記事では、2023年(令和5年)4月1日に施行された不動産登記法の改正によって導入された、
「遺贈による所有権移転登記」および「更正登記」の単独申請制度について解説します。
遺贈と更正登記の単独申請が可能に!
この改正は、登記手続きの停滞を解消し、真の権利者を保護することを目的としています。これにより、これまでの「共同申請の原則」に大きな例外が設けられました。
改正の背景と目的
不動産登記法が改正された背景には、所有者不明土地問題への対応と、以下の課題の解決があります。
- 登記義務者(前所有者、相続人など)の非協力による登記手続の停滞解消
- 不動産登記手続きの簡略化と円滑化
単独申請が可能になった二大制度
特に注目すべきは、以下の二つの登記について、特定の要件のもとで登記権利者(登記を受ける側)からの単独申請が可能となった点です。
- 遺贈による所有権移転登記(共同申請の原則の例外)
- 真正な登記名義の回復のための更正登記(共同申請の原則の例外)
遺贈による所有権移転登記の「単独申請」
遺言により不動産を取得した受遺者(遺贈を受けた者)は、これまで遺言執行者や他の相続人の協力を得る必要がありましたが、これが大きく変わります。
単独申請のメリット
遺贈の単独申請が可能になったことで、受遺者にとって以下のような大きなメリットが生まれます。
最大のメリット
遺言執行者や他の相続人(登記義務者)の協力を得なくても、一定の要件を満たせば、受遺者のみで申請が可能になります。
書類手続きの負担が減る
登記義務者が複数いる場合の、全員分の書類を集める負担がなくなります。
単独申請ができる要件
単独申請を行うためには、遺言の真実性が担保されているなど、以下の厳格な要件を満たす必要があります。
遺言の方式
公正証書遺言など、遺言が一定の方式で作成されていること。
受ける者の確定
特定の者が遺贈により不動産を受けることが確定していること。
遺言執行者の有無
遺言執行者が選任されていないこと、または選任されているがその職務執行が困難であること。
単独申請の手続きの流れと必要書類
遺贈を受けた者(受遺者)は、以下の書類を揃えて法務局に申請します。
必要書類
- 遺言書(公正証書など、真実性が担保されたもの)
- 故人(遺言者)の戸籍謄本(死亡の事実が確認できるもの)
- 受遺者の住民票など
無効な登記を正す!名義回復の更正登記の「単独申請」
過去の登記手続きに誤りがあり、現在の登記名義が真実の権利者と異なっている場合、これを是正するのが「更正登記」です。
新制度では、この更正登記も単独申請が可能になります。
更正登記の目的とは?
「真正な登記名義の回復」とは、現在の登記が何らかの原因(契約無効、錯誤など)で無効である場合に、真実の権利者の名義に戻すことを目的とします。
例えば、詐欺や錯誤により、不動産の売買契約自体が無効になったにもかかわらず、相手方に名義が移ってしまった場合などが該当します。
単独申請が可能となるケース
この制度は、真の権利者でありながら、現在の登記名義人(登記義務者)の非協力や所在不明により登記ができない場合に、救済措置として導入されました。
単独申請が可能となる条件は、以下の通りです。
所在不明であること
大前提として、現在の登記名義人(登記義務者)の所在が不明であることが必要です。
裁判所への事前申立て
単独申請を可能とするための厳格な要件を満たし、裁判所への事前申立てが必要となります。
単独申請の具体的な手続き
現在の登記名義人の所在が不明の場合、通常の手続きができません。
そこで、以下のような流れに従うことで、登記権利者が単独で更正登記を申請できるようになります。
登記名義人に対する公示送達
まず、登記義務者(現在の名義人)の所在が分からないことを証明するために、家庭裁判所を通じて「公示送達」などの手続きを行います。
これは、相手に通知が届かないことを前提に、法律上の“通知が成立した”とみなす制度です。
この手続きを経ることで、登記義務者の意思表示なしでも、法的手続きを進められる状態になります。
法務局への単独申請
公示送達の完了後、登記権利者(例えば、真の所有者や相続人など)が必要書類を整えて、法務局に対し単独で更正登記を申請します。
この際には、登記原因(錯誤や無効など)を証明する資料に加え、裁判所の手続を経たことを示す証拠書類も添付する必要があります。
審査のうえ要件が整っていれば、登記は単独で完了します。
単独申請制度の注意点と実務上のリスク
改正による単独申請制度は強力な手段ですが、利用には厳格な要件があり、いくつかの注意点が存在します。
遺贈の単独申請の注意点
遺贈の単独申請は、全ての遺言形式で認められるわけではありません。
遺言の形式
自筆証書遺言の場合、法務局の検認手続きを経るか、遺言書保管制度を利用している必要があります。形式に不備があると単独申請はできません。
遺留分侵害額請求の可能性
遺贈は、遺留分(法定相続人が最低限受け取れる財産)を侵害する可能性があるため、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクは残ります。
更正登記の単独申請の注意点
更正登記の単独申請は、手続きが複雑で時間と費用を要します。
以下では、更正登記の際に注意すべき点をご紹介します。
裁判所の関与
登記名義人の所在不明を証明するために、裁判所の関与が必要となり、単独で申請できるまでには多くの時間と費用がかかります。
利用目的の限定
「真正な登記名義の回復」という目的以外では利用できません。
例えば、登記上の住所を単に修正したいといった場合には利用できません。
なお、住所変更等は更正ではなく変更登記で対応します。
まとめ:改正制度を最大限に活用するために
2023年4月1日に施行されたこの改正制度は、登記義務者の非協力や所在不明といった障害を乗り越え、真の権利者が登記を実現するための手段となります。
改正された単独申請制度は、登記手続きの停滞を防ぐ強力な手段であることの再確認と、特に遺贈の登記については、公正証書遺言の作成と組み合わせることで、生前の対策として非常に有効です。
公正証書遺言の作成は、遺贈の単独申請要件を満たす上で最も確実な方法であり、将来的な登記手続きを劇的に簡略化できます。
制度の要件が複雑であり、更正登記の単独申請では裁判所の手続きも関わってくるため、トラブルを避け、制度を最大限に活用するためにも、司法書士などの専門家に相談することを強くお勧めします。
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