相続人だと思っていたら非嫡出子だった?認知されていない場合の相続権と対処法

相続の場面で「自分には相続権がある」と信じていたのに、後になって「認知されていない非嫡出子だった」と知らされるケースがあります。

このような場合、法律上の扱いはどうなるのか。相続できるのか。それともできないのか――本記事では、非嫡出子と認知、相続権の有無と具体的な対処法についてわかりやすく解説します。

非嫡出子とは?

相続トラブルの根底には、血縁と法的関係のズレが横たわっています。

「育ててもらったのに、実は法的には親子じゃなかった」――そんなケースも少なくありません。

こうしたトラブルを避けるためにも、まず「非嫡出子」とは何か、その定義をしっかり理解しましょう。

嫡出子と非嫡出子の定義の違い

一見シンプルに思える「子ども」の定義ですが、民法では出生時の両親の関係によって、法的な分類がされています。

この違いが、のちのち相続において大きな影響を及ぼすことになるのです。

嫡出子

嫡出子(ちゃくしゅつし)は、法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子のことです。父母の婚姻により、自動的に父の戸籍に記載されます。

非嫡出子

婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことです。「婚外子」ということもあります。父から認知されなければ、非嫡出子と父との法的親子関係は成立しません。

認知されていれば非嫡出子でも相続できる

非嫡出子でも、父から認知されている場合は、実子と同様に相続人となれます。

逆にいえば、認知されていないと相続権を持ちません。

相続権を得るための方法

非嫡出子で、父親から認知されていない場合でも、相続権を得る道は残されています。ここでは、代表的な2つの方法を分かりやすくご紹介します。

生前認知

「認知」とは、法律上の父子関係が戸籍に明記される行為のことです。

これは父親の“一方的な意思表示”で行えるもので、母や子の同意は不要です(ただし未成年の非嫡出子を認知する場合には、母の同意が必要)。

生前認知とは、父親が生きているうちに認知してもらうことを指します。

死後認知

父がすでに死亡している場合は、家庭裁判所に「認知の訴え(死後認知)」を起こすことで、相続人としての地位を求めることが可能です(民法781条2項)。

死後認知が認められると、その子は法定相続人としての資格を得ることができます。

つまり、遺産分割協議に参加する権利も得られ、認知された時点の法定相続分に基づいて、遺産分割協議への参加や相続分の請求が可能です。

ただし、死後認知は簡単ではなく、証拠の提示と訴訟が必須です。

死後認知の手続きと注意点

死後認知は、認められれば大きな結果をもたらす制度ですが、実際にはハードルも高く、注意点も多いです。

ここではその流れと注意事項をまとめます。

手続きの流れ

認知の訴えを起こす場合、以下のような流れで手続きを進めます。

①家庭裁判所に認知の訴えを提起

父親の死亡地または子の住所地の管轄裁判所に訴状を提出します。

②証拠を提出

父子関係を裏付ける資料(後述)を添付します。

③裁判所による審理と判断

当事者尋問・証人尋問・DNA鑑定なども行われます。

④認知が認められたら、判決により戸籍への追加記載が可能

戸籍が訂正された後は、相続人としての地位を取得できます。

こうして遺産分割協議等に参加することが可能になります。

裁判所が認知を認めると、遡って“初めから子であった”とみなされるため、非常に重要な法的効果を持ちます。

証拠の収集について

死後認知の裁判では、「単にDNAが一致した」だけでは不十分とされることがあります。

裁判所は、“生前に父が子と関係を持っていた事実”や、“父が認知の意思を有していたことを示す証拠があるか”を重視します。

有力な証拠の例として、以下のようなものが挙げられます。

  • DNA鑑定結果(99.99%以上の確率が必要)
  • 父と一緒に写った写真
  • 父からの手紙やLINE・メールなどのメッセージ
  • 養育費の支払い記録
  • 父の親族や知人の証言
  • 遺言書やメモに「○○は私の子である」と記されたもの

証拠が薄いと、DNAが一致していても敗訴することがあります。

時効の問題

死後認知の訴えには時効があります。

これは民法784条により、「父の死亡を知ったときから3年以内」と定められています。

父が亡くなった事実だけでなく、“自分が父の子である”ことを知った時点が起算点となるため、「父が亡くなってから何年も後に気づいた」という場合も、そこから3年以内であれば請求が可能です。

遺言による対応

認知がされていない非嫡出子にも、遺言によって遺産を残すことは可能です。

これは“法定相続人”としてではなく、“受遺者(遺贈を受ける者)”という立場になります。

遺言による遺贈のポイント

遺言による遺贈のポイントは、主に以下の3点です。

  • 遺言書の形式(公正証書遺言が望ましい)
  • 「○○に財産の全額(または一部)を渡す」と明記する必要あり
  • 認知の有無に関係なく、財産を渡すことはできる

ただし、他に法定相続人がいる場合、遺言で非嫡出子にすべて渡す内容にしても、遺留分侵害額請求をされれば、一部を返還しなければならない可能性があります。

遺言だけでは「法律上の親子関係」は成立しないため、あくまで“遺産の譲渡”という補助手段であることを念頭に置いておきましょう。

相続人だと思っていたら非嫡出子だったケースについて解説

認知されていない非嫡出子がどのような扱いを受けるのか、そしてどうすれば相続権を得られるのかを見ていきます。

事例1:葬儀の後、兄弟に「お前には相続権がない」と告げられた

Aさん(40代男性)は、父の死後、当然のように遺産分割の話し合いに加わりました。

しかし異母兄弟から突きつけられたのは、「お前は父から認知されていない。相続人じゃない」という言葉。

Aさんは母親から「あなたはお父さんの子」と聞かされて育ち、何度も父とも会っていたため、青天の霹靂でした。

実際の法律上の問題点

  • Aさんが父の戸籍に載っていない(認知されていない)
  • 父から遺言や認知の証拠も出てこない
  • 相続人としての法的根拠がないため排除された

対応と結果

Aさんは死後認知を家庭裁判所に請求。

DNA鑑定や、父から届いた手紙、写真、第三者の証言を揃え、認知が認められました。

その後、法定相続人として相続分を受け取ることができました。

事例2:DNA鑑定だけでは足りなかったケース

Bさん(30代女性)は、父が亡くなった後に「あなたの父は○○さんよ」と母から聞かされ、戸惑いました。

調査の結果、DNA鑑定では父との血縁は明らかになりましたが、裁判所は認知を認めませんでした。

認知が認められなかった理由

  • 生前の関わりの証拠が乏しい
  • 父が認知意思を持っていたことを示す記録がなかった

裁判では血縁だけでなく、父の意思(扶養、接触、会話、メッセージなど)も重視されます。

まとめ

非嫡出子が相続権を得るには、「生前認知」、「死後認知」、「遺言」という3つの方法があります。

相続開始後に「自分は父の子どもである」と気づいた場合でも、すぐに対応すれば道が開けるかもしれません。

また、認知の問題は相続だけでなく、アイデンティティや人生設計にも直結する深い問題です。

今、自分が何をできるのかを冷静に整理し、必要であれば専門家の判断を仰ぐことが大切です。

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