相続放棄の照会とは?他の相続人の放棄状況を確認したいときの進め方

「相続放棄」は、亡くなった被相続人に多額の借金がある場合などに、相続権を手放すための制度です。しかし、自分よりも優先順位の高い相続人が相続放棄をしたかどうかを確認する方法は、あまり知られていません。

「遺産分割協議を進めるのに、対象のメンバーを確認したい」

「不動産の名義変更をしたい」

――こうした状況では、他の相続人の相続放棄の有無を把握しておくことが非常に重要です。

​この記事では、相続放棄の照会についての基礎知識や、手続きの流れ、その際の注意点について詳しく解説します。

相続放棄における「照会」とは?

相続放棄は原則、被相続人が亡くなったことを知ってから3カ月以内に手続きする必要があります。しかし、自分が相続人として放棄できる立場にあるかどうかを判断するには、上位の相続人がすでに放棄しているかを知ることが大切です。

以下では、相続放棄の「照会」について、詳しくご説明します。

照会とは「相続人の放棄状況を家庭裁判所が確認する手続き」

家庭裁判所が行う「照会」は、他の相続人がすでに相続放棄をしているかどうかを、裁判所が確認してくれる制度です。

相続放棄は本人が申し立てる非公開の手続きであり、他人には情報が開示されません。そのため、本人に直接聞くなどが難しい場合に、家庭裁判所へ照会を依頼することで、正式に相続放棄の有無を確認することができます。

よくある照会が必要なケース

相続放棄の照会が必要になるのは、以下のような場面です。

  • 上位の相続人(たとえば兄姉)が放棄したか分からないが、自分が放棄したい場合
  • 遺産分割協議に参加すべき相続人を確定させたい場合
  • 不動産の名義変更をするにあたって、相続人全員の確定が求められている場合
  • 音信不通の親族がいて、放棄の有無が確認できない場合

こうしたケースでは、裁判所に照会をお願いすることで、確実な情報を得ることができます。

照会を依頼するための流れと申立て方法

照会を依頼する手続きは難しそうに感じるかもしれませんが、実際は比較的シンプルです。以下では、実際の進め方を順を追ってご紹介します。

自分が照会できる対象かを確認

相続放棄の照会ができる対象は、以下の通りです。

  • 相続人
  • 被相続人の利害関係人(被相続人にお金を貸していた人など)

利害関係人は、被相続人の未払いの公共料金などを立て替えして払っていた人なども含まれます。

必要書類を準備する

相続放棄の照会に必要な書類は、申請する人の立場によって異なります。

相続人の場合

相続人が照会を依頼する場合、以下の書類が必要です。

  • 照会申請書(裁判所のHPからダウンロード可能)
  • 被相続人等目録
  • 被相続人の住民票の除票(本籍地が表示されているもの)
  • 照会者と被相続人の戸籍謄本(発行から3か月以内)
  • 照会者の住民票(本籍地が表示されているもの)
  • 委任状(弁護士などの代理人に委任する場合のみ)
  • 返信用封筒と返信用切手
  • 相続関係図(手書きのものでOK)

被相続人の利害関係人の場合

被相続人の利害関係人が照会を依頼する場合、以下の書類が必要です。

  • 照会申請書(裁判所のHPからダウンロード可能)
  • 被相続人等目録
  • 被相続人の住民票の除票(本籍地が表示されているもの)
  • 照会者の資格を証明する書類(住民票や商業登記簿謄本または資格証明書)
  • 利害関係の存在を証明する書面
  • 委任状(弁護士などの代理人に委任する場合のみ)
  • 返信用封筒と返信用切手
  • 相続関係図(手書きのものでOK)

該当の裁判所に申し立てをする

相続放棄の照会は裁判所にお願いしますが、どこの裁判所でもいいという訳ではありません。

申し立てを行うのは、被相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所となります。

照会後の流れと注意点

照会依頼を行ったあとは、家庭裁判所が必要な確認を行い、結果に応じて手続きが進みます。ここでは、照会後の対応と気を付けたい点を確認しておきましょう。

裁判所から回答が届く

申請時に用いた返信用封筒を使って、裁判所から照会結果が届きます。

該当の相続人が相続放棄していた場合、相続放棄の申述があった旨に加えて、事件番号・受理年月日が記載されています。一方、相続放棄がされていない場合、その旨が回答されます。

もし相続放棄されていた場合

相続放棄が確認された場合、その相続人は初めから相続人でなかったものとみなされるため、次の順位の相続人に相続権が移ることになります。

たとえば、長男が放棄していた場合は、次に長女やその他の兄弟姉妹に相続権が移る形です。

相続放棄が確認されたことにより、自分が相続放棄の申述を行える順番に来ているか、あるいは遺産分割協議に参加すべき立場かどうかが明確になります。

また、照会結果に記載された事件番号や受理日は、その後の相続手続きで証明資料として利用できるため、大切に保管しておきましょう。

相続放棄の照会に関するよくある質問(FAQ)

以下では、相続放棄の照会に関する「よくある質問」をまとめました。

Q1. 照会にかかる費用はいくらですか?

照会の申請自体は、無料で行うことができます。

ただし、住民票や戸籍謄本などの申請手数料や、返信用封筒に貼る切手代は用意しておきましょう。

Q2. 上位相続人が音信不通です。どうすればいい?

自分で連絡が取れない場合は、家庭裁判所へその旨を伝え、照会を通して確認を依頼するのが一般的です。

戸籍の収集も合わせて行うとよりスムーズです。

Q3. 専門家に依頼したいが、どこに相談すればいいか?

相続放棄の照会は、弁護士または司法書士に依頼するとスムーズです。費用やお願いできる範囲などが異なるため、あなたの事情に合った専門家を選びましょう。

まとめ|他の相続人の放棄状況を確認する「照会」は、申立人にとって重要な一手

相続放棄の照会は、「自分の相続の順番が来ているのか?」を確認するために欠かせないステップです。とくに、相続人同士の連絡がつかない・放棄状況が不明という場合には、照会をお願いすることで安心して手続きを進められます。

  • 書類は丁寧に、不明点は事前確認を
  • 放棄の有無がはっきりすれば、次の相続手続きにもつなげやすい
  • 専門家の力を借りるのも1つの手段

迷ったときは、ひとりで悩まず家庭裁判所や司法書士などへ相談してみてくださいね。