代表取締役が死亡したとき、会社はどうなる?事業承継の手続きと注意点

経営者の高齢化が進む中、「突然の訃報」はもはや他人事ではありません。とくに中小企業においては、社長=会社の顔・指揮者という一面が強く、代表者の急死は事業の根幹を揺るがす事態にもつながりかねません。

もしもの時、会社はどう動くべきか? 誰が後任を引き継ぐのか? そして、取引先や社員への対応は?

本記事では、代表取締役が亡くなった際にまず行うべき初動対応から、事業承継に向けた具体的な手続きや備えについて、わかりやすく解説します。経営のバトンを“止めない”ために、いま知っておきたい実務ポイントを整理しましょう。

代表取締役が死亡した場合、まず何が起こる?

企業において、代表取締役の存在は法人の「意思そのもの」とも言えます。そのため、社長が急逝した際には、会社の舵取り役を失うことになり、経営上の混乱が起きかねません。

ただし、会社(法人)自体は社長の死亡によって消滅するわけではありません。

ここでは、最初に把握しておきたいポイントを見ていきましょう。

法人は継続、でも“空白の時間”が生まれる

代表取締役が死亡しても、法人が消滅してしまうわけではありません。ただし、代表取締役の地位は、死亡によって自動的に消滅するため、会社の契約締結や意思決定を担う存在がいなくなり、実務上の停滞が起こる恐れがあります。

法人口座は使えるが、手続きが必要になる場合も

個人の口座と異なり、会社名義の口座は死亡によって凍結されることはありません。

ただし、登記完了後に代表者の変更や印鑑届の提出を求められることもあるため、早めの手続きが望まれます。

社長が亡くなった直後にやるべき5つのこと

社内が動揺する中でも、会社を守るためには冷静かつ迅速な対応が必要です。ここでは、すぐに取り組むべき5つのステップを紹介します。

社内への報告と体制の確認

まずは役員や幹部、全社員に状況を共有しましょう。会社の方向性や対応方針を伝えることで、不安の拡大を防げます。

取引先・関係機関への連絡

取引先、金融機関、顧客など、社外の関係者にも速やかに連絡を行います。​社長の死去とともに、会社の今後の体制や対応について説明し、信頼関係の維持に努めましょう。​

代表権の空白を埋める“つなぎ役”の選定

代表取締役が不在のままだと意思決定が止まってしまうため、臨時で業務を担う代行者を決めるのが望ましいです。取締役の中から、暫定的なリーダーを選びましょう。

新しい経営体制の確立

社長の死去に伴い、会社の経営体制を見直す必要があります。​取締役会や株主総会を開催し、新たな経営陣の選任や組織体制の整備を行いましょう。

後任の代表取締役の選任

定款や会社法に基づき、株主総会や取締役会の決議により新しい代表取締役を選任します。​選任後は、法務局への登記申請を行い、正式に就任手続きを完了させます。

事業承継の方法と注意点

事業承継を進める際には、以下の方法と注意点を考慮する必要があります。

親族内承継

社長の子供や配偶者など、親族が後継者となる方法です。​親族内承継は、従業員や取引先からの理解を得やすい反面、経営能力や意欲の有無を慎重に見極める必要があります。

社内承継

役員や従業員の中から後継者を選ぶ方法です。​会社の業務や文化を熟知しているため、スムーズな承継が期待できますが、株式の取得や資金調達などの課題があります。

M&A(第三者承継)

外部の企業や個人に事業を譲渡する方法です。​後継者が見つからない場合や、事業の成長を図りたい場合に有効ですが、相手先の選定や交渉が重要となります。

新代表の選任方法と登記変更について

社長が亡くなったあとは、会社の意思決定を担う新たな代表者を正式に選任する必要があります。

ここでは、会社の組織形態に応じた選任方法と、法務局への登記変更について解説します

取締役会が設置されている会社の場合

取締役会を設けている会社では、取締役会の決議により新しい代表取締役を選任します。

臨時の取締役会を招集し、後任を選定。選任された者が会社の代表となり、登記申請を行います。

取締役会を設置していない会社の場合

この場合は、株主総会の決議で新たな代表取締役を選任します。

中小企業の多くはこちらに該当し、株主の中から後任を選ぶケースが一般的です。

登記手続きのポイント

新代表の選任後は、2週間以内に登記変更を行う義務があります。

これを怠ると「登記懈怠」となり、過料(罰金)の対象となるため注意が必要です。

法務局への登記変更の方法

代表取締役が亡くなったあとは、新たな代表を決定するだけでなく、法務局への登記変更の手続きが必要になります。

登記は単なる届け出ではなく、法人の公的な情報を更新するための重要な法的義務。遅れると、過料(罰金)の対象になることもあります。

また注意点として、前社長の「死亡による退任登記」だけを先に出すことはできません。

新代表の選任とセットで行う必要があるため、“代表者交代”という一連の流れを、まとめて登記する形になります。

次項では、実際に提出が必要となる主な書類を整理していきましょう。

必要書類一覧

登記変更にあたっては、法務局へ以下のような書類を揃えて提出する必要があります。

これはあくまで一般的な例であり、会社の形態や登記所によって微細な差異がある場合もあるため、事前確認がおすすめです。

  • 登記申請書
  • 株主総会(または取締役会)議事録
  • 新代表の就任承諾書
  • 死亡の事実を証明する書類
  • 新代表の印鑑証明書
  • 定款の写し(該当する場合)

書類の不備や記載ミスがあると、手続きが差し戻されてしまうこともあるため、申請前に司法書士など専門家の確認を受けると安心です。

会社を止めないための事前準備(生前対策)

社長が亡くなった後の混乱を避けるためには、生前からの備えが何より大切です。

以下では、会社の事業承継をスムーズに進めるための事前準備についてご紹介します。

遺言書の作成

自社株式や事業用資産についての遺言書を公正証書で残しておくことで、遺産分割のトラブルを防ぐことができます。

後継者育成

突然「任された」だけでは、経営は務まりません。

時間をかけて後継者を育成し、社内外に「この人が継ぐんだ」と認知させておくことが重要です。

事業承継計画書の作成

事業承継に関する全体像(株式の承継方法、資金計画、組織再編、時期など)を文書で可視化しておきましょう。

中小企業庁の支援制度なども活用できます。

まとめ

社長の死去は、会社の経営に大きな影響を与えます。しかし、事前の準備と正しい初動対応で混乱は最小限に抑えられます。

株式・経営・保証など、経営者個人に紐づく要素を整理しておくことが重要です。 「万が一」ではなく「いつか必ず」起こること。それに備えることが、経営者としての最後の責任であり、会社と社員の未来を守る力になります。