「民事信託(家族信託)」とは?仕組みや始め方をわかりやすく解説!
高齢化社会や相続問題が深刻化する中、民事信託(家族信託)は財産管理や相続対策の柔軟な手段として注目されています。一方で、まだまだ民事信託は注意すべき点も多く、活用するには正しい知識を身につけることが大切です。
本記事では、民事信託の仕組みやメリット・デメリット、具体的な始め方をわかりやすく解説します。ぜひ参考にしてみてください。
民事信託(家族信託)とは?基本をわかりやすく紹介
近年注目されている「民事信託(家族信託)」は、柔軟な財産管理や相続対策の手段として多くの家庭や事業者に利用されています。しかし、具体的にどのような仕組みで成り立っているのでしょうか?
まずは、民事信託の基本的な概要や関係者の役割について詳しく見ていきましょう。
民事信託(家族信託)とは?
まず「信託」とは、自身の財産を信頼のおける人に預けて、一定の目的に従って財産の管理・運用等をしてもらうことをいいます。
信託銀行など、信託を生業とするのが「商事信託」、それ以外の信託を「民事信託(家族信託)」と呼びます。
商事信託は信託業法に基づいて運用されますが、民事信託は民法に基づいて運用されます。また、商事信託は利益を得ることを目的としていますが、民事信託は非営利目的なのが特徴です。
民事信託の中でも、家族と結ぶ信託契約を限定して「家族契約」とも呼びますが、これは一般的な用語ではなく、「一般社団法人家族信託普及協会」の登録商標です。
民事信託(家族信託)では、例えば高齢の親が「自分が認知症になったら、財産を円滑に管理してほしい」といった場合、子どもに財産管理を託すことができます。
民事信託の制度を活用することで、さまざまなトラブルを未然に防げるのです。
民事信託(家族信託)を構成する3つの役割
民事信託は、以下の「3者」で成り立ちます。
委託者(いたくしゃ)
財産を預ける人です。通常は財産の所有者であり、自分の財産管理や相続対策を目的に信託契約を結びます。
受託者(じゅたくしゃ)
財産を預かり、管理・運用を行う人です。主に信頼できる家族や親族が受託者となりますが、専門家や法人が受託者を担うケースもあります。
受益者(じゅえきしゃ)
信託財産から利益を受け取る人です。委託者自身が受益者となる場合もあれば、配偶者や子どもが受益者となるケースもあります。
民事信託(家族信託)が注目される理由
高齢化や相続に伴う課題が深刻化する中、民事信託が注目される背景にはどのような理由があるのでしょうか?その社会的なニーズについて詳しく解説します。
高齢社会でのニーズの高まり
日本では、65歳以上の人口が全体の30%を超えるとされており、高齢者の財産管理は重要な課題です。特に、認知症を発症すると銀行口座が凍結され、自由に資産を動かせなくなるケースが多く報告されています。民事信託はこうしたリスクへの備えとして、注目されています。
財産管理の柔軟性
同様の制度に「成年後見制度」がありますが、民事信託では成年後見制度では実現できない資産運用なども可能です。これは「成年後見制度」が、本人の財産を守ることを目的とした制度だからです。
例えば、民事信託では資産活用や相続税対策などを目的として、委託者の財産を活用することができます。
他にも、信託契約書に詳細な条件を設定することで、「子どもの教育費に限定して使う」「自宅を売却せずに維持管理する」など、具体的な目的に応じた設計が可能です。
民事信託(家族信託)のメリット
民事信託は、財産管理や相続対策の柔軟な選択肢として、多くのメリットがあります。具体的にどのような利点があるのか、代表的なポイントを見ていきましょう。
柔軟な相続対策が可能になる
遺言書と異なり、民事信託は「3世代先の相続」まで設計することができます。
例えば、「自分が亡くなった後は妻に、妻が亡くなった後は子どもに財産を承継する」といったものです。
1回の相続だけが指定できる遺言書と比べて、非常に柔軟に相続対策ができるのがメリットです。
残された家族の負担が減る
財産を持つ人が認知症などになった場合、銀行口座などが凍結され、適切な医療費や介護費用を引き出すことができなくなるケースもあります。
しかし、事前に民事信託契約を結んでおくことで、財産の管理や相続手続きがスムーズになり、家族の精神的・時間的負担を軽減できます。
特に、複雑な遺産分割協議を回避し、相続トラブルのリスクが減らせるのが、大きなメリットと言えるでしょう。
特定の目的に応じた設計が可能
「残された家族にどう財産を使ってほしいか」は、遺言書では指定することができません。
一方、民事信託契約では、一定の目的に応じて制度設計をすることができます。
例えば、障がいをもつ家族がいる場合、必要な生活費を定期的に給付する仕組みを民事信託契約によってつくることができます。また、事業承継の際には後継者に株式を分配し、企業の経営を円滑に引き継ぐことも可能です。
民事信託(家族信託)のデメリットと注意点
民事信託にはメリットが多い一方で、注意すべきデメリットも存在します。事前にリスクや手間を理解することで、より安心して活用するための準備ができます。
費用や手間がかかる場合がある
信託契約書の作成や手続きには、専門知識が必要になるため、専門家へ依頼するケースが多いです。
全て自分で手続きする場合であっても、公正証書の作成費用や必要書類の収集にかかる費用、不動産がある場合はその信託登記のための登録免許税など、約20万円前後の費用がかかります。
一方、司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合、上記に加えて約30~60万円前後の費用がかかります。
手続きする手間や、金銭面の課題がある点は、留意しておきましょう。
受託者の責任が重い
受託者には財産管理や運用の責任が伴います。公平性に欠けるなど、不適切な管理があれば、受益者から損害賠償を求められる可能性もあるため、慎重に役割を担うことが求められます。
民事信託(家族信託)を始めるには?
実際に民事信託を活用するには、どのような手続きが必要なのでしょうか?契約の準備から信託の運用開始までの流れを解説します。
信託契約書の作成と専門家の選び方
民事信託契約書には、信託財産の種類や管理の詳細、運用ルールなどを記載します。しかし、こうした契約書を作るには、まず弁護士や司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
特におすすめなのが、司法書士に相談することです。弁護士は法律全般をカバーすることができるものの、民事信託に特化した知識を持っているわけではありません。
そのため、法的トラブルを抱えていない場合は、まず司法書士に相談するのがベストでしょう。
受託者を選ぶ際のコツ
受託者は、財産管理を行う重要なポジションです。信頼のおける人物であるかだけでなく、正しい知識や実務能力があるかどうかも含めて検討する必要があります。
また、契約内容によっては、何世代にも渡って運用されることも考えられます。そのため、長期に渡って受託者の役目を全うできるかも重要なポイントです。
民事信託(家族信託)に関するよくある質問(Q&A)
民事信託について、よくある質問を以下にまとめました。
Q1. 民事信託と家族信託の違いは何ですか?
家族信託は民事信託の一種で、主に家族間で行われるものを指します。
民事信託自体は、家族間ではなくても行えるため、特に家族間のものは「家族信託」と呼ばれるケースもあります。
Q2. 民事信託(家族信託)は途中で変更や解除はできますか?
基本的に、民事信託は信託契約書に記載された条件に沿って運用されますが、契約内容の変更や解除も可能です。
委託者と受託者の同意があれば、手続きを経て契約内容の変更が可能です。
また、信託契約の解除は、あらかじめ信託契約書の中で解除条件を定めておけば、その条件に従って解除することができます。解除条件は「●年●月●日まで」などの具体的な日付や、受益者が死亡したケースなどが見られます。
まとめ
民事信託(家族信託)は、家族の安心を支える財産管理・相続対策の有効な手段です。 認知症対策、障がい者支援、事業承継など、多岐にわたる活用方法があるため、司法書士や弁護士といった専門家と一緒に、ご自身に合ったプランを作成することをおすすめします。