【自筆証書遺言は要注意】無効とされやすい遺言の特徴と、確実に効力を生むための対策

「せっかく遺言書を残したのに、いざ開封したら『無効』と判断された…」

「自筆証書遺言は手軽だけど、本当に効力があるか心配だ」

遺言書を作成する最大の目的は、ご自身の意思を明確にし、残された家族の間の相続トラブルを防ぐことです。しかし、遺言書が法的な要件を満たしていない場合、その遺言書は無効となり、故人のせっかくの想いは実現されません。

特に、手軽に作成できる自筆証書遺言は、要件の不備で無効になるケースが非常に多いため、注意が必要です。

本記事では、遺言書が無効になる3つの主なパターンと、確実にその効力を生むための具体的な対策について解説します。

遺言書が無効になる主な原因(3つのパターン)

遺言書が「無効」となる原因は、大きく分けて3つのパターンに分類されます。

これらの原因のいずれか一つでも該当すると、遺言書は法的効力を失います。

遺言書が無効とはどういうことか?

遺言書が無効と判断されると、原則としてその内容は法的効力を持たない扱いとなります。

その場合、すべての遺産について、法定相続分に基づいた遺産分割協議が必要となります。

結果として、故人が最も避けたかった「相続人同士の争い」が発生するリスクが高まります。

無効になる3つのパターン

遺言書の効力を判断する際、以下の3つのパターンがチェックされます。

パターン1:方式の不備

民法で定められた作成方法のルール(自筆、日付、押印など)を守っていない場合に生じます。

これが最も多く、特に自筆証書遺言で頻繁に発生します。

パターン2:内容の不備

「私の遺言に逆らった者は相続させない」といった法的に無効な条件が付いている場合や、どの財産を指しているのか特定できない場合に生じます。

パターン3:能力の欠如

遺言者が、遺言の内容や効果を理解できない判断能力が不十分な状態で作成した場合に生じます。

無効になりやすい遺言の代表格「自筆証書遺言」のリスク

遺言書が無効になる原因のほとんどは、「方式の不備」です。この方式の不備が最も起こりやすいのが、手軽さゆえに自己流になりがちな自筆証書遺言です。

自筆証書遺言の無効原因

自筆証書遺言で無効になりやすい具体的な形式不備は以下の通りです。

全文が自筆されていない

民法では、財産目録を除き、遺言書の全文を遺言者が自筆することが義務付けられています。

パソコンやワープロで作成した部分、他人に代筆させた部分が一部でもあると、原則として遺言全体が無効になってしまいます。

日付の記載不備

遺言書がいつ作成されたかを特定できないと、複数の遺言書がある場合の優劣を判断できなくなるため、無効となります。

「令和7年吉日」や「還暦を迎えた日」など、具体的な年月日が特定できない表現は認められません。

押印の不備

遺言者の意思表示を担保するために、押印は必須です。

拇印、サインのみ、あるいは押印忘れなど、判別不能な印影や押印自体がない場合は無効となります。

財産目録の不備(2019年改正後の注意点)

2019年の法改正により、財産目録はパソコンで作成したり、通帳のコピーを添付したりすることが認められました。しかし、その例外にも厳格なルールがあります。

目録が手書きでない場合、財産目録のすべてのページに、遺言者の署名と押印がないと無効になります。

内容の不備・能力の欠如による無効リスク

形式的な不備のほかにも、遺言書の内容自体が法的に問題がある場合や、作成時の遺言者の状態によっても無効となる可能性があります。

内容の不備による無効

遺言書に記載された内容が曖昧であったり、実現不可能であったりすると、その部分が無効となります。

財産の特定が曖昧

「自宅の土地」といった曖昧な表現ではなく、「〇〇市〇〇町〇丁目〇番の土地全部」のように地番まで特定されていないと、その財産に関する遺言事項は無効となります。

遺言事項でない内容の記述

遺言書は、財産承継、認知、後見人の指定など、法的に定められた事項のみを記述できます。

法的な効力のない事項(付言事項など)のみで遺言書が構成されている場合は、もちろん無効です。

負担付遺贈の負担が違法・公序良俗に反する場合

「遺産を渡す代わりに、違法な行為をしろ」など、公序良俗に反する条件が付いている場合、その負担は無効となります。

遺言能力の欠如による無効

遺言を作成する能力(遺言能力)がないと判断された場合、遺言書は無効となります。

判断能力が不十分な状態での作成

遺言者が、認知症の診断を受けている、あるいは重度の精神疾患にあるなど、遺言の内容やその法的な効果を理解できない判断能力が不十分な状態で作成したと認められた場合、遺言は無効となります。

遺言書が無効であるかどうかの争いとなった場合、作成時の医師の診断書や第三者の証言(作成時の状況証拠)が重要な争点となります。

確実に効力を生むための対策(3つの遺言方式の比較)

無効リスクをゼロに近づけるには、遺言書の方式自体を見直すことが最も効果的です。

自筆証書遺言の対策

自筆証書遺言の無効リスクを大幅に減らすためには、以下の制度を利用しましょう。

法務局の保管制度を利用する

2020年7月に開始された法務局の遺言書保管制度を利用することで、法務局が形式的な要件をチェックするため、方式不備を防げます。

また、紛失や検認の手間もなくなるため、自筆証書遺言でも高い安全性を確保できます。

公正証書遺言の最大のメリット

遺言の確実な効力を最優先するなら、公正証書遺言が最も推奨されます。

公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が遺言者の意思を確認し、法的に完璧な遺言書を作成するため、方式の不備による無効リスクがほぼゼロです。

また、遺言能力についても公証人が確認するため、後々の紛争を大幅に減らせます。

3つの遺言方式のリスク比較

遺言方式方式無効リスク検認手続き作成費用
自筆証書遺言(自宅保管)必要低(用紙代のみ)
自筆証書遺言(法務局保管)不要低(手数料3900円)
公正証書遺言ほぼゼロ不要高(財産額に応じた公証人費用)

まとめ:無効リスクをゼロにするための行動

遺言書は「思い」だけでなく「形式」が重要です。遺言書が無効になってしまえば、あなたの最後の意思は誰にも届きません。

無効リスクを避けるためには、自筆証書遺言でも法務局の保管制度を利用するか、公正証書遺言を選ぶことが最も確実な対策です。

専門家のチェックを受けないまま作成された遺言書は、無効リスクが高いということを常に念頭に置く必要があります。

遺言書の作成指導・相談は、専門家である司法書士に依頼することをお勧めします。専門家であれば、方式の不備だけでなく、財産の特定や遺言能力の有無についても適切にアドバイスを行い、あなたの最後の意思を確実に実現できるようサポートします。

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