家族が認知症の場合、相続手続きは?対策や対応をご紹介!

日本では高齢化が進んでおり、65歳以上の高齢者の認知症の有病率は12.3%というデータも出ています。

相続の手続きは総じて複雑化しやすいものです。本記事では、認知症の方が相続人または被相続人である場合に、考慮すべきポイントや、適切な対策について解説します。

認知症の方が相続人の場合の手続き

認知症の方が相続人の場合、最も問題になるのが「遺産分割協議ができない」という問題があります。認知症の方は、正常な判断能力が低下しているため、そのままでは話し合いによる相続手続きができないとされています。

以下では、認知症の方が相続人の場合、行うべき手続きをご紹介します。

成年後見制度の利用

認知症の方が相続人となる場合に推奨されるのが、「成年後見制度」を利用することです。

「成年後見制度」は、判断能力が不十分な方の財産管理や法律行為を代理で行うための制度です。

成年後見制度は「法定後見制度」と、「任意後見制度」が存在し、以下のような特徴を持ちます。

法定後見制度本人が認知症などで判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって専任された後見人が遺産分割協議などに参加する
任意後見制度本人がまだ十分な判断能力を持っている時に、あらかじめ後見人となる人や、その人に委任する内容を定めておき、認知症などで判断能力が失われたのちに、任意後見人が事務手続きなどを代行する

あらかじめ後見人を定めてない場合は、法定後見制度を活用すべく、家庭裁判所に申し立てを行います。後見人の選任は時間が必要なため、相続が発生する段階で早めに対応することが大切です。

また、後見人は家族が選ばれることもありますが、場合によっては第三者の専門家が選ばれるケースもあります。その場合は費用が発生するため、あらかじめ頭に入れておきましょう。

遺産分割協議への対応

相続を進めるには、基本的には遺産分割協議を経て、相続人全員の合意のもと、財産の分け方を決定します。

しかし、相続人の中に認知症の方がいる場合かつ、その方が意思表示を行う事ができない場合、上記で説明した後見人が代理で協議に参加します。

このケースでは、代理人は認知症の方の利益を最大限に考慮する必要があり、協議が長引く可能性もあります。また、後見人が選任されるまでの期間中は、遺産分割協議を進めることができないため、手続きそのものが遅れることが見込まれます。

予防策としての家族信託

認知症による相続トラブルを避けるためには、事前に家族信託を活用するのも有効です。家族信託とは、財産の所有者が信頼できる家族に財産管理を任せる制度で、信託契約を結ぶことで認知症発症後もスムーズな財産管理が可能となります。

例えば、不動産や預貯金の管理を信託受託者である家族に任せ、所有者が認知症になっても財産が適切に管理されるようにします。これにより、成年後見制度を利用する手間を省きつつ、相続手続きも円滑に進めることができます。

認知症の方が被相続人の場合の注意点

一方、認知症の方が被相続人の場合、遺言書や相続手続きに関する特別な対応が必要になるケースがあります。以下では、遺言書や財産管理の面でよくあるトラブル事例や、注意点をご紹介します。

遺言書の有効性と無効リスク

認知症の方が遺言書を作成している場合、その遺言書が法的に有効であるかが問題となります。

遺言書作成時点で認知症の症状が進行していた場合、意思能力が欠如していたと判断され、遺言書が無効となる可能性があります。

こうしたトラブルを避けるためには、医師の診断書を添付したり、証人を立てるなど、遺言者の意思能力を証明する対策が必要です。また、認知症が進行する前に遺言書を作成することで、弁護士などの専門家サポートを受けることも可能です。

死亡後の財産管理と相続手続き

認知症の被相続人が亡くなった場合、遺された財産の相続手続きにも配慮が必要です。認知症が進行していた場合、被相続人が適切に財産を管理できないことが多く、財産の全貌を把握することが難しいケースもあります。

このため、まず相続人は被相続人の財産を正確に調査する必要があります。特に、不動産や預貯金の名義変更、財産目録の作成、相続税の申告など、各種手続きを迅速に行うためには、専門家のサポートを受けることが推奨されます。

また、財産管理が不十分であった場合、相続人間でのトラブルが生じるリスクもあるため、事前に信託契約や遺言書を用意し、財産のリストを作成しておくことが大切です。

よくある質問

認知症と相続に関する、よくある質問をまとめています。正しい知識を身につけることで、スムーズな相続を実現しましょう。

認知症の家族が相続人のとき、どのように手続きを進めればいいですか?

認知症の家族が相続人の時は、通常の相続手続きに加え、成年後見制度の利用が必要となります。成年後見制度は、まず家庭裁判所へ後見開始の審判の申し立てを行います。その際、申立書や関係書類を裁判所へ提出し、受理された場合は家庭裁判所が後見人候補との面談を行います。

その後、後見人が確定しますが、申し立てから審判までは2カ月程度かかるため、早めに手続きをしておくことが大切です。

家族信託を利用して財産を管理するにはどうすればよいですか?

原則として、家族信託は認知症発症後には利用することができません。

しかし、認知症の症状が軽度であると医師に診断され、公証人の立ち合いがある場合は、その限りではありません。

家族信託を利用するには、家族間で内容を話し合い、合意を得る必要があります。全員の合意が得られたら、決めた内容を信託契約書に反映し、書類を作成します。

この時、内容に不安な部分がある場合、司法書士や弁護士といった専門家に相談するのがおすすめです。

その後、財産の名義を親から子などに移します。不動産であれば法務局に「信託登記」と申請する必要があります。

また、現金や預貯金が含まれる場合、財産管理のための専用口座をつくり、その口座に信託された財産を入金し、管理していくことになります。

まとめ

認知症の方が相続に関わる場合、相続手続きには成年後見制度の活用や遺言書の有効性の確認など、特別な対応が必要となります。 認知症の進行に備え、あらかじめ家族信託などを活用することで、相続時の財産管理をスムーズにすすめることができます。認知症の家族がいる場合や、将来に備えておきたい場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談し、適切な対策を講じておきましょう。